最新記事

アメリカ政治

オバマ思い上がり政治のツケ

金融危機から2つの戦争まで何でも解決できると過信した大統領。就任1年目で医療保険改革に手を出したのがそもそもの間違いだ

2010年1月22日(金)17時01分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

野心の代償 結局は医療保険改革でも満足な結果は得られそうにない
Jason Reed-Reuters

 アメリカ大統領の任期は4年ではなく1年----大統領選挙中にバラク・オバマは、誰かにそんな嘘を吹き込まれたに違いない。そうでなければ、恐慌の域に達した経済危機や2つの戦争、地球温暖化まで抱える彼が、就任1年目にして厄介な医療保険改革にまで手を出した理由が理解できない。

 今のところ当然ながらその試みは大失敗しており、現代史における最大の政治的誤算になりかねない状況だ。アメリカ国民は失業の大波にさらされ、政府の助けを借りたウォール街の大泥棒たちに愕然とし、自分たちの懐に戻ってくることがまったく期待できない政府支出の大きさにあきれ返っている。そんな彼らにとって医療保険改革はあまりに現実離れした政策だ。

 もちろん、これは何も新しいことではない。自信過剰があだとなった話しは遠い昔からある。ギリシャ神話でアキレスとアガメムノンが、その高すぎるプライドを神から諌められたように。オバマは自分は「選ばれし人間」で、その「政治的資本」には限りがないと考えているように見える。だが実際には、オバマも過去の大統領と同じだ。彼らの就任1年目を上回るほどの政治的資本を持っているわけではなく、そのすべてを景気刺激策や金融改革に使い果たし、アフガニスタンの戦争にすら十分に対応できていない。

 私がオバマの大きすぎる野心を心配し始めたのは昨年、金融改革が議会で論じられているときだった。多くの議員の秘書やスタッフたちが私に訴えた。金融業界への規制はウォール街のロビー活動によって抜け穴だらけにされているが、議員たちにはそれを理解する時間がまったく足りないと。医療保険問題が、彼らが考える時間を奪っていったのだという。

 オバマと閣僚たちは金融制度改革に集中するのがやっとのように見えた。商品先物取引委員会(CFTC)のゲーリー・ゲンスラー委員長をはじめとする規制当局者に丸投げしただけのようだ。市場原理主義の時代が終わり、ウォール街に天罰が下った歴史的な転換点でオバマは、この一生に一度の大仕事を後回しにしてしまったようだ。

共和党にも自信過剰に泣いた過去が

 オバマは医療保険改革の厳しい戦いを抱えて1年経った今になって、ようやくウォール街の構造を打ち砕くと真剣に語りだした。もちろん大銀行のロビイストは反発するだろうし、1人でも多くの議員を抱き込もうとするだろう。だがオバマには、それに対抗するだけの政治的資本がもう残っていない。一方の医療保険改革も、彼がこれほど長い時間を費やしてきたにもかかわらず、その内容は実に乏しいものとなっている。

 もちろん、すべてが失われたわけではない。まだ1月の終わりだ。自信過剰な面は誰もが多かれ少なかれ持っている。もしオバマがラッキーなら、共和党は今年、ニュート・ギングリッチ元下院議長が94年に行った改革を真似ようとし、実力以上のことに手を出して大失敗するだろう。

 思い出して見るといい。ギングリッチもまた、当時は自分を歴史的な人物と見なしてビル・クリントン大統領をないがしろにしていた。中間選挙で圧勝して共和党が下院を支配するようになると、ギングリッチは大幅な支出削減を国民から託されたのだと、完全に思い上がっていた。

 だが実際は違った。自分が的確な支出削減を行っていなければ、アメリカは史上初の債務不履行に陥っていたとギングリッチが公式に語った後、彼は国民の支持を失った。結果、次の大統領選にはクリントンが再選され「カムバック・キッド」と呼ばれるようになった。クリントンもその後、2期目は「プライベート」なところで少し自信過剰になっていたようだ。

 プライドは超党派的なもの。そして転落も同じくだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独VW、国内9工場で時限スト開始 本社に数千人集結

ビジネス

イタリアGDP、第3四半期前期比横ばい 輸出と投資

ビジネス

英製造業PMI、11月改定48.0 9カ月ぶり低水

ビジネス

ECB、12月も利下げへ=ギリシャ中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で17番目」
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    白昼のビーチに「クラスター子弾の雨」が降る瞬間...クリミアで数百人の海水浴客が逃げ惑う緊迫映像
  • 4
    「すぐ消える」という説明を信じて女性が入れた「最…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    ロシア・クルスク州の軍用空港にウクライナがミサイ…
  • 7
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 10
    LED化を超える省エネ、ウェルビーイング推進...パナ…
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 4
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていた…
  • 5
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 10
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中