最新記事

米空軍

さらば栄光のトップガン

空爆の主役を無人機に奪われ、誇り高き戦闘機乗りの文化に幕を閉じるときがやってきた

2009年12月15日(火)14時48分
フレッド・カプラン(オンラインマガジン「スレート」コラムニスト)

 アメリカ空軍は創設以来60年余りの歴史を通じて、華麗な軍隊であることをいつも誇りにしてきた。戦闘機を操るパイロットは「トップガン」と呼ばれ、大空を支配し、(少なくとも映画の中では)白いスカーフを巻いて、女の子たちの胸をときめかせた。

 今、そのすべてが変わろうとしている。空軍の使命、気風、アイデンティティーをめぐる熾烈な戦いに、トップガンたちが敗れつつある。この夏、ステルス戦闘機F22ラプター(F22)に関してワシントンでヒートアップした論争はその1つの表れだ。

 一見すると、このF22論争はよくある予算上の綱引きに見えなくもない。空軍は、F22を新たに20機導入するための予算40億ドルを要求。空軍としてはその後もF22を増やしていって、20年までに既存のものと合わせて全部で387機を所有したい意向だった。

 この予算要求にロバート・ゲーツ国防長官がノーを突き付けた。バラク・オバマ大統領も、F22の購入予算を1機分でも含んでいれば、議会が予算案を可決しても拒否権を行使すると表明した。これにて一巻の終わり。F22の命脈は絶たれてしまった。

 F22の死は、1つの戦闘機の命運以上の意味を持っていた。F22開発計画が始まったのは冷戦の真っ盛りだった81年。アメリカが、当時の共産主義超大国のソ連とにらみ合っていた時代だ。最先端のテクノロジーを備えたF22に期待された役割は、ソ連の最新鋭の戦闘機を撃墜し、空中戦に勝って制空権を握ることだった。

 しかしこのF22が初めて実戦配備されたのは、冷戦がとっくに終わった後の05年末。当初の計画から大幅に遅れ、開発費も当初予算を超過していた。

「空軍を殺すに等しい」打ち切り

 現実には、F22より性能の低いF15戦闘機やF18戦闘機に太刀打ちできる空軍力を持つ国さえ世界のどこにもない。そこで、赤字をこれ以上増やしたくない議会や国防総省内の一部の文官は、F22導入の打ち切りに動いた。

 これに対して、F22推進派は猛反撃を開始した。最新鋭の戦闘機を殺すのは、空軍を殺すに等しいというのがその発想だった。

 F22推進派の戦いは、時代の流れに逆行していた。1947〜82年に空軍参謀総長(空軍の武官トップ)を務めた10人はすべて、爆撃機もしくは戦闘機パイロットの出身。82〜08年に空軍参謀総長を務めた9人は、全員が戦闘機パイロット出身者だった。

 08年、ゲーツ国防長官が当時のジョージ・W・ブッシュ大統領に次期参謀総長として推薦したノートン・シュワーツは、まったく違うタイプの軍人だった。シュワーツは、爆撃機にも戦闘機にも搭乗した経験がない。操縦していたのはC130。図体の大きい輸送機である。

 C130の役割は、基地などの拠点から兵士や武器、食料などの補給物資を前線に空輸すること。陸軍や海兵隊や特殊部隊が迅速に展開するためには空軍による空輸活動が欠かせないが、華がある任務とはとうてい言えない。空軍上層部は、戦闘機による空中戦や爆撃機による空爆に比べて、空輸を重視してこなかった。

 しかし時代は変わった。イラクとアフガニスタンの戦争は、F22の開発段階で念頭に置かれていた戦いとはまるで性格が違う(実際、どちらの戦場にもF22は投入されていない)。爆撃すべき戦略拠点はほとんどなく、空中で追跡・撃墜すべき敵機もない。

 それに代わる空軍の主たる役割は、アメリカや同盟国の地上部隊を支援すること。具体的には空輸を行うことと、地上部隊が敵を発見・攻撃する手助けをすることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、薬価を59%引き下げると表明

ビジネス

スズキ、関税影響など今期400億円見込む BYD軽

ビジネス

スーパーのコメ価格、18週ぶり値下がり 5キロ42

ワールド

米国に対する世界の評価が低下、中国下回る 「米国第
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中