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米司法9.11公判、裁かれるのはCIA
同時テロ容疑者の訴追が決まったが、弁護側に拷問疑惑を追求されるCIAは窮地に立たされる
主犯格 ニューヨーク連邦裁判所に起訴されることが決まったモハメド(この似顔絵はグアンタナモ基地での軍法委員会で書かれたもの) Reuters
今年に入り、米司法省の検察官が9.11テロの首謀者とされるアルカイダ幹部ハリド・シェイク・モハメドら5人の訴追準備に取り掛かった時、エリック・ホルダー司法長官は完璧な立件を命じた。「勝てない裁判にはするな」
しかし検察団は大きな問題を1つ抱えていた。CIA(米中央情報局)による「行き過ぎた尋問」に触れることなく、どうやって裁判を進めていくかだ。検察団は何カ月間にも渡って証拠を精査し、水責めなど手荒な尋問による供述やその他の違法な手法が使われていない「クリーン」な証拠だけで事件を組み立てなおしたという。
検察は拷問疑惑に神経質になるあまり、FBI(米連邦捜査局)の「公正」な尋問による証言さえ、証拠として使わないことを決めた。FBIの取り調べがCIAの手荒な尋問で引き出された情報を参考にしていないか、確信が持てなかったからだ。
ホルダーは11月13日、モハメドら5人を、ニューヨークの世界貿易センタービル跡地に近い連邦裁判所に起訴する方針を明らかにした。「拷問で得られたもの以外の証拠はたくさんある」と、ある司法省幹部は語る。送金や電話の通話記録、パソコンデータ、ビデオ画像などだ。
死刑求刑でも情状酌量か
しかしだからといって、この裁判が容疑者への拷問に関する法律論争から逃れられるわけではない。たとえ司法省が拷問疑惑に触れられないように立件しても、弁護側は巧妙に虐待を示す証拠を持ち出し、証言の有効性を問いただすだろう。容疑者を尋問したCIA職員への接触も試みるはずだ。
弁護側には、拷問疑惑を持ち出し、取り調べ時の容疑者の精神状態を争点にする権限がある(別の容疑者の裁判では、鎮静剤によって容疑者は正常ではなかったと弁護側が主張している)。判決が下される段になれば、検察側が死刑を求刑しても情状酌量が適用されるかもしれない。
「CIAを裁判にかけるようなもので理解できない」と、情報機関の元幹部職員は憤る。ホルダーらはそうした事態は避けられると考えているようだが、内情に詳しいある議会関係者は首をかしげる。「この裁判にリスクがないと考えている連中は、公判の流れを分かっていない」