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中東和平イスラエルの人種隔離策を許す米議会
強力なイスラエル・ロビーのおかげで、オバマ政権が生き返らせようとした2国家並存案は臨終寸前。パレスチナ人は「拡大イスラエル国家」の虜囚にされかねない
迫るアパルトヘイト イスラエルの攻撃で自宅を破壊されたパレスチナ・ガザ地区の少年(11月3日) Suhaib Salem-Reuters
私は2007年の著書『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』(邦訳・講談社)で、米・イスラエル広報委員会(AIPAC)が「米議会でほぼ絶対的な支配力」をもつと指摘した。以来、その状況を変える事態は起きていないし、今週は米議会の気骨のなさを改めてさらけ出す一件が起きた。
米下院は11月3日、ゴールドストーン・リポートに対する非難決議案を圧倒的多数で可決した。ゴールドストーン・リポートとは、08年末から今年1月にかけて起きたガザ紛争での、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマス(パレスチナ)による戦争犯罪を調査した報告書。国連人権理事会の委託を受けて調査を率いたのが、旧ユーゴ戦争犯罪法廷で主任検事を務めたリチャード・ゴールドストーンだ。
AIPACは、イスラエルとハマスの双方に人権侵害があったとする調査結果に激怒。同リポートを非難するようバラク・オバマ米大統領とヒラリー・クリントン国務長官に勧告する決議案を、強烈にプッシュしてきた。
これに対してゴールドストーンは決議案の事実誤認を指摘。歴史家のトニ-・ジャット(ニューヨーク大学教授)もゴールドストーンの調査結果を支持することを表明した(ちなみにゴールドストーンもジャットもユダヤ系だ)。
一方、オバマ政権が掲げてきた中東和平政策の屈辱的な後退を印象づける事態も起きた。オバマがカイロ(エジプト)における演説で、イスラエルの入植凍結を求めてから5カ月しかたっていないというのに。
泥棒に礼を言ったヒラリー
中東を歴訪したクリントンは10月31日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との共同会見で、東エルサレムで続くイスラエルの破壊行為を批判しないばかりか、ネタニヤフが入植地問題で「前例のない譲歩」をしたと絶賛した。
まるで夫(ビル・クリントン元米大統領)なみのでたらめ発言だ。ネタニヤフは、ヨルダン川西岸では新しい入植地の建設を当面凍結するが、入植者の「自然増」による拡大は今後も続け、東エルサレムについては入植地建設を続けると主張した。これのどこが譲歩なのか。
ユダヤ人入植地はイスラエル政府が建設したものもそうでないものも含め、すべて国際法に違反している。これは世界の共通認識であり、アメリカもかつてはそう考えていた。しかしネタニヤフのいう「譲歩」のために、パレスチナ人は自分たちの国を建設しようと思っている土地がブルドーザーと建築作業員に侵食されるのを見ながら、新たに無意味な協議を行わなければならない。
ネタニヤフの主張を「前例のない譲歩」と称えるのは、自分の家に入った泥棒が、「ゆっくり盗んでいく」と申し出たからといってお礼を言うようなものだ。
オバマ政権が発足したとき、イスラエルとパレスチナの2国家併存案は瀕死の状態で、生命維持装置につながれたようなものだった。オバマは当初、この案を生き返らせるため真剣に看病してくれるかに見えた。少なくとも口先ではそう言った。それがオバマとクリントンは今、生命維持装置の電源を引き抜こうとしている。
「2つの人民のための2つの国家」が選択肢から消え、誰もがそれを受け入れたら、そして「拡大イスラエル国家」の中のパレスチナ人がイスラエル人と同じ権利を求めるようになったら、オバマ政権はどうするのか。平等や民主主義、人権を求めるパレスチナ人を支持するのか。それともアパルトヘイト(人種隔離政策)国家となったイスラエルを擁護し、金銭援助を続けるのか。米議会が腰抜けから立ち直らない限り、答えはもう見えている。
Reprinted with permission from Stephen M Walt's blog, 04/11/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.