最新記事

米メディア

全米最悪FOXニュースの偏向ぶり

オバマ批判の急先鋒、右派系ニュース専門局FOXがアメリカを蝕む

2009年10月19日(月)17時29分
ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)

無責任報道 高視聴率を叩き出すFOXニュースの看板司会者ビル・オライリー Lisa Miller-Reuters

 FOXニュースは右派寄りの偏向報道を行っている――10月8日、ホワイトハウスのコミュニケーション責任者アニタ・ダンにそう非難されたとき、FOXはこの種の批判を受けた際のいつもどおりの態度を取った。偏向などしていないと反論する一方で、実際には紛れもない偏向報道を続けたのである。

 FOXのウェブサイトでこのダンの批判に関する記事を読めば、一目瞭然だ。その記事は5人の人物のコメントを引用しているが、そのうちの2人はFOXで働いている人間。5人がそろいもそろって、オバマ政権高官によるFOX批判を事実無根と非難し、あるいは政治的に愚かな行為だと嘲笑している。ダンの主張を支持する人物のコメントは1人も引用していない。まさしく、偏向報道のお手本のような事例だ。

 ウェブサイトだけではない。テレビのFOXニュースにチャンネルを合わせると、いつものキャスターやコメンテーター連中が同じ主張を異口同音に唱えていた。オバマ政権のFOX叩きは批判勢力潰しの陰謀の一環だ、FOX以外の報道機関はすべてオバマ寄りではないか、オバマ政権はFOXを批判する暇があれば国の舵取りに専念せよ......などなど。

「FOX流」がCNNまで侵食

 ジャーナリズムの責務を真剣に考えている報道機関は例外なく、大統領を批判するとき公平な報道をするように細心の注意を払う。それが報道機関の誠実さを問う試金石だと考えている。しかし、FOXは違う。報道が不公平だと苦情を寄せた人間に嘲笑を浴びせ、証拠を見せろと言いつのり、証拠が示されればそれを黙殺する。

 FOXに批判的な左派系のドキュメンタリー映画『アウトフォックスト』(04年)では、FOX上層部が記者たちに共和党寄りの報道をするよう命じていることを示す証拠が紹介されている。

 もっとも、もはや命令するまでもないのかもしれない。メディア王ルパート・マードックがFOXニュースを設立し、歴代共和党大統領のメディアコンサルタントを務めたロジャー・エールズをトップに据えて13年。FOXの職員は本能的に、ニュースを右寄りにねじ曲げるようになっている。

 しかもさらに問題なのは、FOX的なやり方がアメリカのメディアを侵食し始めていることだ。FOXの成功によりイデオロギー的に偏向した報道が視聴率を稼げると分かって、CNNやMSNBCなどのニュース専門ネットワークも似たような番組をつくるようになった。FOXは、アメリカのテレビニュース全体の信頼性を蝕んでしまったのだ。

報道の独立性が死んでしまう

 アメリカの報道機関の特色は、報道の独立性にある。アメリカのジャーナリズムはこの1世紀、特定の政党や団体の意向に沿うのではなく、国民の利益のために報道を行ってきた。報道の自由がある国でも、報道の独立性が保たれている国は多くない。例えばイギリスなどでは、メディアは党派色の強い報道をしている。

 その意味で、FOXの姿勢は極めて「非アメリカ的」だ。そこでFOX上層部は、「公平でバランスの取れた報道」という心にもないキャッチフレーズを方便として打ち出した。意図的に特定の党派に肩入れしていると公然と認めれば、アメリカ人に受け入れられないからだ。しかし、もはやその嘘は隠しようがない。

 FOXとどう接するかはホワイトハウスにとっては政治的損得の問題だが、ジャーナリストにとっては倫理の問題だ。ジャーナリストがFOXの番組に出演すれば、その政治的プロパガンダにお墨付きを与え、まっとうな報道機関の役割を低下させるのに一役買う結果になる。

 良識あるジャーナリスト諸君、FOXに出演するのはもうやめよう。派手なボイコット運動を行って話題をつくれば、FOXの思うつぼだ。ただ黙殺するのがいい。

 私? この記事をきっかけにFOXから出演依頼があっても遠慮させてもらう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反落、ダウ155ドル安 関税巡る不

ビジネス

ユナイテッド航空、第2四半期見通し予想下回る 景気

ワールド

米、メキシコ麻薬カルテルのリーダーに制裁 情報提供

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、関税巡り慎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 7
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中