アメリカにはびこる「嫌欧症」の愚かさ
フランス革命はけんか好きの証拠
アメリカ人のヨーロッパ嫌い、つまり「嫌欧症」は今に始まったことではない。リベラル系のシンクタンク、ブルッキングズ研究所(ワシントン)の研究者でフランス人のジュスタン・バイッスは、アメリカの嫌仏症(嫌欧症の一形態)はフランス革命までさかのぼると主張している。
バイッスによれば、アメリカではフランス革命をきっかけに「けんか好きで強情な人間たちが住む、不安定で偏狭な国という偏見」が生まれた。さらに、その後の米仏関係の紆余曲折を経て、アメリカ人の心に次のようなフランスのイメージが永遠に刻み込まれたと、バイッスは指摘する。「反道徳的、打算的、反ユダヤ主義、尊大、取るに足りない、過去の栄光にすがっている、エリート主義、汚い、怠け者、そして反米」
もっと最近の話をすると、イギリスの歴史家ティモシー・ガートン・アッシュはイラク戦争の開戦当時、アメリカの右派政治家や評論家がヨーロッパに対して使っていた侮蔑語を短いリストにまとめた。そのうちの1つ「ユーロウィーニーズ」には、意気地なしで二枚舌の軟弱な偽善者というニュアンスがあるそうだ。
そして現在、嫌欧症はかつてない猛威を振るっているようだ。最近はオバマが何かをするたびに、右派の論客は「あの男はアメリカ人の仮面をかぶったヨーロッパ人だ」と言わんばかりの攻撃を仕掛けている。
例えば今年5月、オバマがジョー・バイデン副大統領とワシントンのハンバーガー店に行ったときのこと。バイデンはハラペーニョ(メキシコの青トウガラシ)入りのチーズバーガーを注文した。オバマが頼んだのはマスタード入りのハンバーガー──ただし、ただのマスタードではなく、フランス生まれのディジョン・マスタードを注文した。右派からみれば、退廃したヨーロッパのエリート主義の悪臭がする「許し難い罪」だ。
間もなくハニティらは、オバマは「純血種のアメリカ人」ではないというレッテル貼りを開始した。フランス生まれの、しかも北米ではイギリス人を起用したコマーシャルで有名になったマスタードを注文するなど、アメリカ人の風上にも置けないというわけだ。
ラジオのトーク番組の司会者で評論家のローラ・イングラムはこう言った。「ケチャップじゃなくて、ディジョン・マスタード入りのチーズバーガーを注文するなんて、いったいどういう男なの?」