アメリカにはびこる「嫌欧症」の愚かさ
医療保険改革を「ヨーロッパ化」と呼びオバマをヒトラーになぞらえる右派の攻撃が、論争の本質を見誤らせる
アメリカの右派はバラク・オバマ大統領の就任後、この政権はわが国をヨーロッパのような「社会主義体制」にするつもりだと非難してきた。だが、いったいヨーロッパの何が悪いというのだろう?
EU(欧州連合)諸国はアメリカより乳児死亡率が低い。特にフランスはEU圏でトップだ。例えば明日アメリカで生まれた男の子の平均余命は78歳。大半のEU諸国で生まれた男児はそれより1年、フランス生まれならさらに2年は長生きできる。
OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、アメリカ右派の言う「社会主義のヨーロッパ」で生まれた男の子は、大きくなってからも幸せに暮らせる可能性が高い。小学校から大学まで、教育は基本的に無料。卒業後は世界的な大企業に入社できるチャンスがある。石油業界の大手のうち3社(BP、ロイヤル・ダッチ・シェル、トタル)、通信機器の大手2社(ノキア、エリクソン)、売上高でみた世界の10大企業のうち4社は、ヨーロッパの会社だ。
バケーションもアメリカより長い。病気の療養や子育てのための休暇も多く取れる。きちんとした治療を受けられるチャンスも大きい。高齢者になったら、公的年金が生活の面倒を見てくれる。
それでもアメリカの右派は、オバマとヨーロッパを非難し続けている。FOXニュースの看板キャスター、ビル・オライリーに言わせれば、ヨーロッパは「臆病者」の集まりだ。トーク番組の人気司会者ショーン・ハニティは、オバマ政権の景気刺激策を「ヨーロッパ式社会主義法」と呼んだ。
ハニティと並ぶトークショーの人気司会者ラッシュ・リンボーは、こう主張した──オバマがやろうとしている医療保険制度改革の支持者は、国家反逆罪ものの反アメリカ的陰謀に加担する者たちだ。連中の狙いはアメリカを「ヨーロッパ型の社会福祉国家」に変えることにある。