最新記事

事件

マイケル「医療殺人」の意味

薬剤投与によるマイケルの急死が医療ミスではなく殺人と断定された理由を元検視官に聞いた

2009年8月26日(水)16時28分

新たな悲劇 マイケルは常軌を逸した医療行為で殺された?(写真は05年) Reuters

 マイケル・ジャクソンの急死について8月24日、思わぬ展開があった。ロサンゼルス群検視局は、一般には手術で使われる麻酔薬プロポフォールと他の2つの鎮痛剤が死因と結論づけた。これらの薬が原因だったことは別に意外ではなかったが、検視官がジャクソンの死を「殺人」と断定したのは衝撃的だった。

「殺人(ホミサイド)」は、ジャクソンが殺されたことを意味するが、必ずしも「殺意をもった殺人(マーダー)」だったことを意味しない。ロサンゼルス郡地方検事局はまだ、ジャクソンの専属医だったコンラッド・マーレー医師に対する容疑を発表していない。

 それでも、殺人という発表には多くの疑問が沸く。そもそも医療殺人とは何なのか。医療ミスとどう違うのか。そんなに酷いことなのか。本誌のサラ・クリフが、テキサス州ベクター郡の元検視局長で、現在は米法医学・病理学ジャーナル編集長のビンセント・ディマイオに聞いた。

──ジャクソンの死を殺人と断定した検視局は、専属医がどんなことをしたと考えているのか。

 彼らがこれを殺人に分類できるのは、医学的に見て投与する理由のない薬が投与されていたからだ。たとえば手術中に大量に与えすぎたのであれば、事故ですんだかもしれない。だがこのケースでは明らかに殺人だ。

──ジャクソンのケースで殺人に該当するのはどの部分か。

 殺意はなかったとしても、専属医は普通の人が合理的と考える医療の範囲をはるかに超えてしまった。それが殺人だ。医学的に正当化できる余地がない。加えて、彼は麻酔専門医もいないところで麻酔を投与していた。環境も整っていなかったわけだ。

──マーレー医師がこれは医療ミスだと主張する余地はあるか。

 このケースでは無理だ。ジャクソンにこの薬を与えたことは正当化できない。検視局もそこに目をつけた。彼がしたことには医学的な根拠がない。手術をしていたわけでもなければ、麻酔専門医もいなかった。しかも彼は内科医だ。もし投薬が適当だったとしても、状況は不適切だった。麻酔は彼の専門分野ではない。

──医療殺人はよくあることなのか。

 めったにない。医者があまり一般的でない治療を行って患者を死なせることはたまにある。だがそのほとんどは医療ミスだ。私の知る医療殺人のほとんどは安楽死で、これも少し事情が違う。医療行為が殺人と認定されるのは、よほど甚だしい過失があった場合だけだ。

──法医学の歴史上、このケースはどう位置づけられるか。

 きわめて異常だ。こんなことが起こるとは、私も含めて誰も予想していなかった。私が知る唯一の医療殺人は殺意をもって殺した事件で、今回のようなケースは初めてだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱重の今期、事業利益9.6%増予想 受注高は16

ワールド

アングル:前教皇の路線継承か、国際知名度低い新ロー

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊鋼への生産集約を本格検討 大阪の

ワールド

トランプ米大統領、8日にイスラエル戦略相と会談=ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中