最新記事

米トレンド

クロックス撲滅運動、取り下げます

世界で大流行した快適サンダルの生みの親に破綻の噂が出るなか、1年前にクロックス反対論を唱えた記者が態度を撤回したわけは?

2009年7月24日(金)16時59分
スティーブ・タトル(ワシントン支局)

風前の灯? アメリカだけでなく世界的に流行したクロックスだが今や破綻寸前に(インドネシア・ジャカルタで、09年4月) Beawiharta-Reuters

 昨年8月、他の記者たちがバラク・オバマを追い掛けて全国を飛び回るなか、私はアメリカにとって大統領選よりはるかに重要な問題を追っていた。クロックスの異常な人気ぶりについてだ。あんなケバケバしい色のサンダルを公共の場で履くなんて!

 私は、この恐ろしい流行を終わらせようと、記事を通じて人々に呼びかけた。それに対する読者の反応はすさまじかった。コメントが数千件、殺すぞという脅迫が数件、プロポーズがいくつか――。

 その後あっと言う間に約1年が過ぎ、現在クロックス社の業績は急速に悪化。07年秋には75ドル21セントだった同社株は、現在3ドル程度にまで落ち込んだ(今の時代に下落しないほうがめずらしいとも言えるが)。この春には、同社のCEO(最高経営責任者)が辞任。最新の年次報告書が発表されると、メディアの間では破綻の可能性までささやかれるようになった。

 白状すると、私は同社の苦境を初めて耳にしたとき、国民が私の訴えを聞き入れてくれたのだと思った。主流メディアには影響力がないだなんて、誰が言ったんだ?
 
 だがすぐに私は、職業上滅多にない感覚に襲われた――後悔の念だ。クロックスが破綻すれば、善良な人々が職を失う。確かにこの「道化靴」はダサいし、恥ずかしくて履けたものではない。だが、たまたまこの靴を作る職に就いたという勤労な国民を、私が侮辱していいのだろうか。

 このサンダルには需要があるのだ。それなのに、こんなもの作るべきじゃないなどと、どうして言えるのか。ああ、ちゃんと考えれば良かった! クロックスがなくなれば、汗臭い足にはディスカウント・ショップで売られている5ドルの偽クロックスが覆いかぶさることになる。

手袋を足にはめたがる世の中なんて

 いや、もっと悲惨なことにもなりかねない。こんなことは思ってもみなかったが、みんなはさらにダサい靴を履き始めるだろう。それはビブラム社の「ファイブフィンガーズ」。これに比べると、クロックスが高級靴ブランドのマノロ・ブラニクのように見えてくる。ファイブフィンガーズは5本指ソックスが靴になったようなもの。1度お目にかかったら、夢にまで出てきそうなシロモノだ。だがビブラム社のウェブサイトによれば、これは「ビーガン(完全菜食主義者)に最適」らしいが。

 タイム誌は、ファブフィンガーズを07年の傑作発明の1つに選んだ。つまり、この時にこの靴は全滅すべきだったのだ。ニュース誌が「これがアツい!」と報じるときには、その時点で流行はほぼ終わっているということなのだから。だがこの靴は死の宣告にも関わらず生き延びて、社会に居場所を見つけつつある。

 誤解しないでほしい。私は今でもクロックスが嫌いだ。だがクロックスは、少なくとももうちょっとマシな靴を作ろうという努力はしていた。例えば、ド派手なサンダルや毛皮付きのブーツなど。今頃これらを発売するなんて、無駄な努力かもしれないが。

 だから、読者の皆さんの多くが私に感謝して、政治家への道さえ勧めてくれようとも、私はここで辛口のマニフェストを正式に撤回することにする。

 ダサい靴屋さん、御社の幸運をお祈りします。人々が手袋を足にはめたがるような世の中では、御社が作る不気味で、汗で滑りやすいサンダルさえ、許してしまいたくなるから。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、「中央都市工作会議」10年ぶり開催 都市開発

ビジネス

午後3時のドルは147円半ばで上昇一服、米CPI控

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に失望表明 「関係は終わって

ビジネス

日産、追浜工場の生産を27年度末に終了 日産自動車
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中