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アメリカ政治米大統領選ペイリンの野望
これは2012年大統領選スタートの合図だろう。知事職を放り出して共和党の前副大統領候補サラ・ペイリンが動き出した
いざ国政へ あと1年半の任期を残してアラスカ州知事を辞任すると明らかにしたペイリン(7月3日、アラスカ州ワシラで) KTUU-TV-Reuters
08年のアメリカ大統領選を共和党の副大統領候補として戦ったアラスカ州知事のサラ・ペイリンが7月3日、知事辞任の意向を表明した。任期をあと1年半残して7月末に知事の職を退くという。
ひょっとすると、とてつもない大スキャンダルがこれから飛び出すのかもしれない。あるいは、保守層の根強い人気を生かして、FOXニュースのコメンテーターにでも転身するつもりなのかもしれない。
しかし3日のペイリンの記者会見は、2012年の大統領選に向けた事実上の出馬表明と見なすべきだろう。会見の入念な言葉遣いからそれが分かる。「わが軍隊に神の祝福を」「古い政治はもうたくさん」「アメリカをよくしたい」......定番のキャッチフレーズのオンパレードは、どう考えても政治コンサルタント(この程度の新味のない言葉を使いたがるようでは一流の政治コンサルタントとは言えないが)の入れ知恵だ。
会見では知事としての実績を強調することも忘れなかった。大規模な天然ガスパイプライン建設、超党派の政治倫理改革、教育への空前の規模の投資、「大きな政府」化への歯止め......(共和党支持層と一部の無党派層には確かに受けそうな「実績」だ)。知事の任期4年間で達成するはずだった課題を「2年でやり遂げた」と、ペイリンは胸を張った。大統領選の選挙演説そのものだ。
アラスカよりワシントン
海外で任務に就いている兵士たちは「人生が短いと知っている」ので「ぐずぐず時間を無駄にしない」と、ペイリンは言った。自分もアラスカで時間を無駄にせずに国政に打って出るべきなのだと言いたいらしい(自分の政治的野心を正当化するために、命を危険にさらしている兵士たちを引き合いに出すとはずいぶんな神経の持ち主だ)。
「安易な道」を惰性で歩き続けるのは責任を「投げ出す」に等しいと、ペイリンは言った。国政を目指すことこそ責任ある決断なのだと言いたいのだろう(自分がアラスカ州知事の職を投げ出したことは棚に上げてしまったようだ)。
ペイリンは一線を退くつもりなどない。これからはアラスカに縛られることなく、全米の保守派の称賛を浴びながらリベラル派攻撃に精を出すつもりに違いない。
ペイリンの知事辞任宣言が政界引退宣言でない証拠をもう1つ挙げよう。演説の締めくくりに、元軍人ダグラス・マッカーサーの言葉を引用している。「私たちは撤退するわけではない。別の方向に転戦するのだ」
ペイリンもアラスカから南へ、合衆国の首都ワシントンへ転戦しようとしている。