最新記事

米軍事

司令官クビは妥当か、公正か、正解か

アフガニスタン駐留米軍マキャナン司令官の解任劇を、3つの視点で切る

2009年5月12日(火)22時48分
ピーター・フィーバー(デューク大学政治学部教授)

異例の更迭 任期途中で解任さたマキャナン司令官(アフガニスタン、3月26日) Jonathan Hemming-Reuters

 5月11日、アメリカのロバート・ゲーツ国防長官はアフガニスタン駐留米軍のデービッド・マキャナン司令官の更迭を発表した。このニュースについて、簡単に私の考えを3つだけ述べたい。

 更迭は妥当だったのか。答えは、もちろんイエス。オバマ政権はこれまで文民統制に細心の注意を払ってきており、今回の更迭も例外ではない。

 米軍の最高司令官が、信頼できなくなった部下を更迭するのは当然のことだ。ブッシュ政権もこういった決断をもっと多く下すべきだったろう。

 文民統制の観点から言えば、マキャナンの更迭は教科書どおりの措置だ。誰に聞いてもマキャナンは優秀で尊敬され、その長年の貢献に対して国民から感謝されてしかるべき人物。ゲーツが彼に対して贈った賛辞も適切だった。

 では、更迭は公正だったか。答えはノーかもしれない。当初の報道では、マキャナンが足を引っ張る存在だったとか、アフガニスタン情勢の悪化がマキャナンのせいだという論調はなかった。

 こう言うこともできる。もっと問題が指摘されていたジョージ・ケーシー元司令官や、辞任前に叩かれた米中央軍のウィリアム・ファロン司令官に比べて、マキャナンはすぐに見切りをつけられた。

 ケーシーはイラクでの増派戦略に声高に反対し、ファロンはブッシュ政権の政策に水を差すのが自分の役目だと言いふらしていた。マキャナンに関してはこのような報道はない(これから出てくるかもしれないが)。

 最後に、更迭は正しい決断だったのか。これを判断するには早すぎるろう。アフガニスタン駐留軍の指揮体制に問題があるのは疑いようのない事実だが、最も深刻な問題はNATO(北大西洋条約機構)の側にあり、米軍内部ではない。

 ただ、マキャナンが上司であるデービッド・ペトレアス中央軍司令官の信用を失ったことは明らかだ。このこと自体が今回の更迭の理由であり、後任にはペトレアスからもっと信頼されている人物が就くとみられる。

 一方でワシントン・ポスト紙の軍事担当記者トーマス・リックスが言うように、今回の更迭は、オバマ政権が打ち出す包括的な戦略転換の一部でなければ筋が通らない。更迭が正しかったかどうかは、他の問題がどうなるかによる。現時点で判断するのは時期尚早だ。

 ブッシュ政権末期からオバマ政権初期にわたって、ゲーツはかなりの数の将校を更迭している。冷戦後の国防長官としては最も多い数だ。

Reprinted with permission from Shadow Government・
http://shadow.foreignpolicy.com, 14/05/09. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中