最新記事

米経済

誰が「黄金の州」を殺した

政治も経済も機能不全に陥ったカリフォルニア、その元凶はエコ推進の富裕層だ

2009年4月7日(火)12時08分
ジョエル・コトキン(ジャーナリスト)

 カリフォルニア州は過去何十年もの間、アメリカ経済がもつ強みの縮図だった。高度なテクノロジーに芸術的な創造性、肥沃な農地、不屈の起業家精神が州の経済を力強く支えてきた。

 今のカリフォルニアは違う。政治の機能不全と経済の停滞の縮図と言ったほうがいい。2月19日に州議会の上下両院はようやく財政赤字削減策をまとめたが、これでカリフォルニアのかかえる問題がすべて解決したわけではない。

 カリフォルニア州はこれまで、何度も死の淵から生還してきた。最近では90年代初めの不景気を乗り越えて見事に復活した。しかし現状では、「黄金の州」が再び活力を取り戻す可能性は乏しそうだ。

 B級映画スター出身の州知事の言動はまるで道化だし、州議会はヒステリックな環境保護派と官僚機構の代弁者と化石同然の保守派の間で分裂状態。そのせいで、州の財政は壊滅的な状況に陥っている。カリフォルニアの政治指導者たちはときどき、この州の本当の強みを----カリフォルニアとアメリカの未来を取り戻す道を開くかもしれない要素のことを----忘れかけているようにみえる。

 目下の状況はきわめて悲惨だ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究によれば、カリフォルニアでは昨年の早い時期に早々と景気後退が始まり、2011年までほかの大半の州より景気が悪いままの可能性が高いという。現在の失業率は10%前後で、全米で最悪の水準だ。

 現在の不景気は、ある意味で自業自得にみえる。問題の原因は「バブル依存症」だ。最初はドットコム・バブルだった。ベイエリア地区のIT産業を中心に巨額の富が生まれたが、01年にバブルが崩壊して州経済は大きな痛手をこうむった。しかし、そのころすでに次のバブルが生まれようとしていた。住宅バブルである。

 不動産の相場が高騰し、マイホームの「価値」が年20%のペースで上昇していくのを人々はほくほく顔で見ていた。全米で住宅バブルが生まれていたとはいえ、カリフォルニアの不動産市場の過熱は常軌を逸していた。

ナルシシズム政治の罪

 カリフォルニア州の経済全体が不動産投機を中心に回っているのも同然という時期もあった。ある時点では、新規雇用の半分以上を不動産、建設、住宅金融などの産業が生み出していた。不動産セクターに依存しすぎていたことは明らかだ。住宅バブルが崩壊すると、カリフォルニアの富はまたたく間に消し飛んだ。

 政治家や企業経営者、学者がこうなることを予測し、適切な対策を打てなかったことに驚きを感じている人も多い。しかし私に言わせれば、今回の事態を招いた真犯人は「ナルシシズムの政治」だ。

 美しい容貌と肉体に恵まれた人間がたいていそうであるように、カリフォルニア州には自己陶酔の傾向がある。かつてはその強い自信を原動力に、数々の偉業を成し遂げたこともあった。1906年の大地震で壊滅したサンフランシスコを再建し、ロサンゼルスに世界で指折りの交通網を築いた。60年代には、高速道路の拡張、大学の創設、水利システムの整備が進められた。

 だが、成功はカリフォルニアを堕落させた。自己陶酔は内向きのナルシシズムに変容し、自分のことしか考えない傾向が強まっていった。高い給料に、(たいていプールつきの)立派な住宅、ビーチのバカンスといった豊かなライフスタイルを中流層も享受できるようになり、増税や荒れる若者、非白人住民の増加を極度に恐れる風潮が社会に広がっていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中