最新記事
AI

生成AIに関する、楽観論でも悲観論でもない「真に問うべき質問」

ISSUES 2024: ARTIFICIAL INTELLIGENCE

2023年12月27日(水)18時45分
レフィク・アナドル(メディアアーティスト)、カレル・コマーレク(実業家)
AI アート レフィク・アナドル

レフィク・アナドルは機械学習を利用した没入型アート作品を次々と発表している(ドバイ) CEDRIC RIBEIRO/GETTY IMAGES FOR ART DUBAI

<現在と過去の関係は、生成AIの在り方と似ている。2023年にチェコで行われたプロジェクト『ドボルザーク・ドリームズ』とは何だったのか?本誌「ISSUES 2024」特集より>

人間は今、あまりに過大な影響を地球に与えているが、自らも深い変化を経験している。

これまで人間の労働によってのみ成し遂げられていた仕事が、マシンによってできる部分が増えてきた。創造性が求められるタスクも例外ではない。AI(人工知能)の幅広い応用は、遠い未来の可能性ではなく、現実となりつつあり、そのままこの世界にとどまることは確実だろう。

AIのポテンシャルを考えたとき、一方では、1990年代のような楽観論が存在する。当時、IBMの初期のAI「ディープブルー」がチェスの世界チャンピオンを負かしたのをきっかけに、さまざまな領域におけるAIの応用が語られた。その一方で悲観論も存在した。AIが多くの人の生活の糧を奪い、人間の存在そのものも脅かすというのだ。

どちらも目新しい反応ではない。だがどちらの反応も、技術の進歩と人間の発展を切り離して考えるという間違いを犯している。楽観論者はAIが人間のために何をしてくれるかを夢中で語り、悲観論者はAIに何をされるかに不安を抱く。だが私たちが真に問うべきなのは、AIが人間と共に何を達成できるかだ。

この問いは、アートの世界にも、金融の世界にも関係する。

最新のメディアアートは実験と伝統の対話から生まれる。もともと人間の新しいものへの憧れと伝統への称賛は、相互依存関係にある。あるアート作品は、過去のトレンドを理解して初めて、その作品の斬新さを知ることができる。その意味では、過去の文化的遺産から完全に切り離されたアートは存在しない。

投資もハイブリッドな活動だ。この分野で成功するためには、真のイノベーションを見抜く能力が必要だ。そのためには過去をきちんと理解している必要がある。

現代に生き返るドボルザーク

こうした現在と過去の関係は、生成AIの在り方と似ている。AIは、人間の活動から生まれた膨大なデータを活用することで、汎用性に近いレベルの応用法を生み、幅広い文化や産業に及ぶイノベーションを後押しする。筆者ら2人が共同プロジェクト『ドボルザーク・ドリームズ』に取り組み始めた背景にも、AIに関するこうした共通理解がある。

このプロジェクトは、19世紀のチェコの作曲家アントニン・ドボルザークの楽曲とビジュアル資料、そしてレガシーを機械学習によってまとめ上げ、デジタルアートに昇華させるというものだ。

完成した作品は、2023年9月にチェコの首都プラハで開かれたドボルザーク・プラハ国際音楽祭で披露された。歴史的コンサートホール「ルドルフィヌム」前に大型モニターが設置され、集まった人々を魅了した。AIが新たな創造性をもたらすとともに、文化遺産を豊かにするツールになることが示された瞬間だ。

【関連記事】インプラント不要、ヒトの脳内思考を読み取ってAIで文章化する方法が開発される

展覧会
京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ」 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中