最新記事

ベンチャー

処方薬を、飲みやすく個別包装して届けてくれるサービス

薬の服用にまつわる煩わしさを解決するベンチャー

2015年10月16日(金)07時00分
三橋ゆか里(ITライター)

手間いらず 薬とビタミン剤を時間毎にまとめて個別包装して届けてくれる

 IT業界では、大規模な変化を起こそうとする人たちのことをDisrupter(ディスラプター)などと表現する。"Disruption"とは、「破壊」を意味する。彼らが挑戦するのは、私たちの社会や生活に溶け込んだ「慣れ」を取り壊すことに他ならない。

 医療業界で、それにチャレンジするスタートアップがいる。ボストンを拠点に活動する「PillPack」だ。ネーミングから想像がつくかもしれないが、患者が服用する処方薬を、摂取時間でまとめて個別梱包して自宅に届けてくれるサービスだ。2014年2月のサービス開始から現在に至るまでに、全米中に100万以上の処方箋パックを発送している。

 アメリカでは、国民一人当たりが服用する薬の数は年々増え続けており、国民の半数が1種類以上の処方薬を服用していると言われている。また、ビタミンやミネラルなどの栄養素をサプリメントとして摂取する習慣もあるため、それを含むとさらに多くの錠剤が服用されていることになる。PillPackでは、薬のみならず、これらのビタミン剤も含めて個別梱包してくれる。


 風邪を引いてしまい、出してもらった処方箋で近所の調剤薬局で薬を受け取る。それが、たまになら既存の仕組みでも大した不自由はない。しかし、いくつもの薬を服用している場合、飲み忘れに気をつける以前にその管理が大変だ。アメリカでは国民の10人に1人、約3,000万人が1日5つ以上の処方薬を服用している。うつ病、糖尿病、心臓病、抱える病気はそれぞれだ。それだけ多くの人が、仕方なく、この不便に耐えているのだ。

 アメリカは、そもそも医療制度自体がややこしい。日本のように、財布に保険証さえ入っていれば、目についた病院にふらっと入れる仕組みではない。自分が加入している保険会社に応じて、その保険に対応している病院と医師に診てもらう必要がある。うっかり適用外の病院で診察してもらおうものなら、目が飛び出るような金額の請求書に見舞われる。

 病院のオンライン化も、進んでいるようで実態が伴っていない印象だ。ポータルサイトを使って連絡すれば医師と直接連額が出来ると説明を受けたが、前回は1ヶ月経ってやっと担当医から電話がかかってくる始末。処方箋のミスを正してもらうというシンプル、でも重要なことにそれだけの時間を要した。PillPackでは、薬の調整や補給についても、同社の調剤師が担当医と直接やり取りしてくれるため患者は手間いらず。また、24時間質問に答えてくれる調剤師も配備されている。

 このようにして新たなソリューションがいざ形になってみると、なぜ、それがこれまで存在しなかったのかと不思議に思ってしまう。

 処方箋は、そういうものだから。

 PillPackは、この不便極まりない「慣れ」を変えることに挑戦している。その不便を被っているその当事者でさえ、その事実を忘れてしまっている事態に。私たちの生活に潜む不便にチャレンジする彼らのようなディスラプターが、今後もっと多く登場することを願っている。



[執筆者]
三橋ゆか里
フリーランスのITライター。IT系メディア「The Bridge」や、女性誌「Numero」や「Hanako」などで幅広く執筆。三省堂の「ICTことば辞典」を共著。現在はロサンゼルスに在住しながら、世界各国のスタートアップを取材し続けている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

パウエルFRB議長は「予想よりタカ派的」=次期議長

ワールド

米中首脳が釜山で会談、関税など協議 トランプ氏「大

ワールド

政策金利の現状維持、賛成多数で決定 高田・田村委員

ビジネス

JAL、発行済み株式の1.8%・200億円を上限に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中