アンジーの迫力全開『マレフィセント』
Jolie the Magnificent
邪悪な妖精を演じるアンジェリーナ・ジョリーの存在感と優れた脚本で大人も魅了
「この呪いは永遠に続く!」と、邪悪な妖精マレフィセントに扮したアンジェリーナ・ジョリーが赤ん坊にまじないをかける。彼女のお告げは本物だ。
威厳に満ちたジョリーの迫力といったらない。大きな角、特殊メークでとがらせた頬骨、ネオンのように緑色に輝く瞳がなくても、呪いがかけられたことを疑う者はいないはずだ。
『眠れる森の美女』のストーリーにフェミニストの視点をちょっぴり加えたディズニー映画『マレフィセント』は、ジョリーの存在感を十二分に利用している。彼女の圧倒的なスターパワーを前に、観客まで魔法をかけられた気分になるのだ。
見どころはジョリーだけではない。オーロラ姫を演じるエル・ファニングも素晴らしい。16歳で永遠の眠りに就くよう呪われるオーロラは甘ったるくなりがちだが、役と同じ16歳のファニングは初々しくも爽やかに好演。森の湖上を飛び回る虹色の妖精を眺める場面では、彼女の心からの喜びが伝わってくる(実際にいない妖精を相手に演技するのは大変だっただろうが)。
妖精のほかにも、キノコの帽子をかぶった小人や青い蝶々もたくさん登場。おとぎ話には付き物とはいえ、見ているだけで楽しい。
今どきのおとぎ話はゴシック風やレトロなSF風など、スタイリッシュでダークな味付けがされることが多いが、この映画はあえて子供が喜びそうなもので勝負している。魔法、魔女、毛皮のローブを着た王様、ベールから顔をのぞかせる貴婦人、そしてもちろん妖精だ。
妖精たち(とこの映画)に君臨するのはマレフィセント。ただし、彼女は最初から邪悪な存在ではなかった。
女性間の愛情の複雑さ
その昔、マレフィセントは見事な翼を持った妖精の孤児で、沼地にそびえる木の上で暮らしていた。ある日、森の中で出会った人間の少年ステファンと仲良しになり、いずれは人間界と妖精界の懸け橋になることをにおわせる。
ところが成長したステファン(『第9地区』のシャルト・コプリー)は、マレフィセントを滅ぼそうとする悪い王に仕えている。一方のマレフィセントはやがて妖精界の支配者に。「マレフィセントを殺した者を後継者にする」という王の言葉を聞き、ステファンは幼なじみの彼女を殺そうと森に出掛けていく。だがどうしても殺すことができず、彼女を薬で眠らせて翼を切り落とす。
目覚めたマレフィセントが自分の身に受けた残酷な仕打ちに気付き、生々しい怒りの叫び声を上げるシーンは圧巻だ。大切な翼を奪われた恐怖から、彼女が邪悪な妖精に変貌してしまうのもうなずける。