映画になったバイアグラ営業マンの告白
Confessions of a Viagra Salesman
映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』の原作者ジェイミー・レイディが、バイアグラの売り込み方から効果まで赤裸々に語る
20代でもバイアグラを使う男性はいるだろうが、ジェイミー・レイディにとっては「仕事の一環」だった。90年代に米製薬大手のファイザーに入社し、バイアグラのセールスマンとして働き始めた。
その後、自分の体験を綴った著書『涙と笑いの奮闘記──全米セールスNo.1に輝いた"バイアグラ"セールスマン』(邦訳・アスペクト)を出版。この秋には、ジェイク・ギレンホール主演の映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』(11月24日全米公開、日本公開未定)にもなった。「性の特効薬」をめぐる仰天エピソードから映画への思いまで、本誌エンターテイメント担当ラミン・セトゥデがレイディに話を聞いた。
──どんな経緯であの仕事に就いたのか。
大学時代はROTC(予備役将校訓練部)に所属していて、3年間は実際の任務に就いていた。ファイザーは一度面接を受けただけで、すぐに採用が決まったんだ。ファイザーは3つの「M」に弱い。Military(軍隊)、Minorities(マイノリティー)、そしてMormons(モルモン教徒)。
──モルモン教徒?
外国で宗教を売り込めるなら、どんなものだって売りさばけると思ってるんだろうな。
──ファイザーは発売当初、バイアグラをどうみていたのか。
彼らはそれほど期待をかけていなかった。勃起不全(ED)と診断された一部の男性にだけ、爆発的に売れると考えていた。米食品医薬品局(FDA)が販売対象として認めたED患者以外に売ることについては、大きな不安を抱いていた。
──女性版バイアグラがうまく行かなかったのは?
男性がバイアグラを使うと、効果は一目で分かる。でも女性の場合は、性的機能不全の定義を一つに絞り込むことができない。「オーガズムを感じたことがない」という人もいれば、「今回のオーガズムはたった2回だけ」という人もいる。科学者たちは(女性版バイアグラの開発は)「無謀だ!」と言っていた。
──ターゲットにした男性はどんな人たち?
どんな人を狙うべきか、いつも言い聞かせてくれる泌尿器科医がいてね。彼が言うには、45歳の男性だと。45歳になると18歳の頃のようには行かなくなる。でも18の頃に戻りたい──。泌尿器科医は正しかった。バイアグラのCMに出ている男性を思い浮かべるといい。60歳くらいの男性は出ていないだろう?
──彼らは自分の妻とセックスしたいのか。それとも愛人と?
バイアグラをくれと医者に頼み込む男性の話はたくさん耳にした。妻とのセックスのためにそこまで必死になることはない──泌尿器科医はそう見抜くだろう。
しかし、夫を連れて泌尿器科医に来る妻は大勢いるらしい。泌尿器科医が「今日はどうしてこちらに?」と聞くと、夫は「分かりません」と答える。そうすると妻が夫を肘でつつきながら、「バイアグラが欲しくて来ました。私たち、立て直さないとね」と言うんだ。ダジャレじゃないよ。バイアグラについて話すときは、どんな言葉も隠語っぽくなってしまう。
──あなた自身もバイアグラを使ったことはある?
そりゃあるよ。自分で使ったこともない薬は売り込めないだろ? もちろんゾロフト(抗鬱剤)やダイフルカン(女性が感染するカンジダ膣炎の予防薬)を使ったことはないけど。バイアグラはテキーラをショットグラスで13杯くらい飲んだ夜には最高。パーティーなど娯楽目的の需要も、実はものすごく大きい。
僕がサンフランシスコの近くで会議に出ていたとき、ある医師に麻薬性興奮剤のポッパー(亜硝酸アミル)と一緒にバイアグラを使ってもいいかと聞かれた。僕は「ノー!」と突っぱねたよ。ポッパーは同性愛者の間で大人気なんだ。ファイザーは、ヘロインやコカインとバイアグラの併用は奨励しない。違法ドラッグとの組み合わせを売り込んだりしない。
──バイアグラの副作用にはどんなものがあるのか。
よくあるのは頭痛、顔のほてり、鬱血の3つだ。視覚異常として周囲が青や緑色に見えることもある。バイアグラ服用者の約3%が体験している。もし僕が抗ヒスタミン剤のセールスマンだったら、医師に何か言われるだろう。でもセックスが目的のバイアグラでは問題にならなかった。頭がぶっ飛んでるだけだと思われたんだろう。
──バイアグラを服用すると勃起が4時間続くこともあると聞いたけど。
私の周囲の男性はみんな、「4時間も勃起し続けたら知り合い全員に電話して自慢する」と言っていた。でも実はとても危険なことなんだ。
──どうして?
筋肉があんな風に硬直すると、取り返しのつかない障害をもたらす恐れがある。病院に行って、勃起したペニスを萎えさせてもらわなければならない。
──何だか痛そうだね。
そりゃ痛いだろうさ。
──映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』は原作に忠実か。
私の本が映画の出発点になっているのは確かだ。映画は本の愉快な空気をうまくつかんでいると思う。ジェイクが演じた主人公は映画の中で成長した。私は最後まで大バカ者のままだったけどね。
──申し訳ないが、原作はまだ読んでいないんだ。ラブストーリーの要素はあるの?
ないよ。読んでなくても大丈夫。僕の母親だってまだ読み終わってないからね。