リメーク版の映画、特に名作のリメークに付きまとう疑問は、「なんでまた」だ。人はこの言葉を、時にはため息交じりにつぶやき(「ニコラス・ケイジの『ウィッカーマン』? なんでまた」)、時には天に向かって叫ぶ(「トム・クルーズとケイティ・ホームズの『ラストタンゴ・イン・パリ』? なんでまた!」)。
『ベスト・キッド』のリメーク版への「なんでまた」には、中くらいの怒りが籠もっているだろう。84年公開のオリジナル版では、ノリユキ・パット・モリタ演じる空手の達人がいじめられっ子のダニエル(ラルフ・マッチオ)を指導して、空手の大会で優勝させる。公開当時は、汗と涙のスポ根ものに見えたかもしれないが、いま振り返ってみると、とてもよくできた映画だ。人物のちょっとした特徴も丁寧に描き、少年の心に師匠への尊敬が芽生える過程をじっくり追っている。職人の技が冴える作品で、いま見ても新鮮だ。
ということは、オリジナル版を支えた映画人魂を汚さないことが、リメーク版の第1の条件。この点では、リメーク版は十分過ぎるほどに成功している。
クリストファー・マーフィーの脚本は、オリジナル版に非常に忠実だ。時にはせりふの一言一句までそのまま残している。マーフィーに加えて、監督のハラルド・ズワルトに拍手を送りたいのは、ドラマ中盤の、ともすれば中だるみになりがちな部分を重視した点だ。上映時間は2時間半近くと、オリジナルより少し延びたが、格闘場面を増やしたわけではなく、師弟の信頼関係が育まれる過程にたっぷり時間を取っている。
派手な中国武術のスタントが繰り広げられ、骨が砕かれるような効果音(今どきの映画の暴力シーンには付き物だ)も入るため、格闘場面はオリジナル版より迫力がある。とはいえ、オリジナル版のファンが恐れるようなCGを多用した、ちゃちなカンフー映画にはなっていない。同級生をボコボコにするために修行を積む11歳の少年の物語としては、これ以上考えられないほど心温まるドラマだ。
年齢設定を変えた狙い
オリジナルと大きく違うのは、まず主人公の年齢を下げたこと。オリジナル版の主人公ダニエルは15歳の高校生だったが、リメーク版のドレ・パーカーはまさに「キッド(がきんちょ)」だ。年齢設定を変えた理由は容易に分かる。今の15歳児は、84年当時よりもすれている。今の高校生はひ弱で純朴なダニエルに感情移入できないだろう。それに、主人公が11歳ならもっと幼い子供を連れた家族客が見に来ることも期待できる。
もう1つ大きな違いは、物語の舞台だ。オリジナル版では主人公と母親はニュージャージーからロサンゼルスに移ってくる設定だったが、今回はドレと母親(タラジ・P・ヘンソンが辛辣なジョークで笑わせる)はデトロイトから北京へと移り住む。
ドレは新しい環境に溶け込めない。友達はいないし、中国語はまるでダメ。しかも、カンフー少年チョンとその子分たちの執拗ないじめに遭う。唯一の救いは、かわいいバイオリンの天才少女メイ(ハン・ウェンウェン)の存在だ。
ある日の放課後、ドレはチョンたちに囲まれる。あわやボコボコにされると思ったその瞬間、ドレの住むアパートの無口な管理人ハン(ジャッキー・チェン)が登場。少年たちにほとんど手を触れず、コミカルなカンフーでやっつける。
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