アカデミー賞の醜い中傷合戦
A History of Oscar Smear Campaigns
アカデミー賞有力候補の『ハート・ロッカー』にまつわるスキャンダルが相次いでいるが、毎年のように繰り返される光景はもはやオスカーシーズンの風物詩だ
世界で最も汚いゲームは政治だが、ハリウッドの中傷合戦は僅差で2位に入るはずだ。3月7日の授賞式を控えてアカデミー賞の選考が大詰めを迎えるなか、作品賞の最有力候補『ハート・ロッカー』が受けた打撃は少なくない。
まず、作品の共同プロデューサー、ニコラス・シャルティエがアカデミー賞を選考する映画芸術科学アカデミー会員の友人にメールを送り、『ハート・ロッカー』への投票を促していたことが発覚。同じメールで、「制作費5億ドルの超大作」の『アバター』を最下位に投票するよう要請していたことも分かった。映画芸術科学アカデミーはこの行為をルール違反とし、シャルティエにアカデミー賞授賞式への出席を禁止した(作品の受賞そのものは禁止してはいない)。
一方、本作が描く米軍の爆弾処理班の実態については、本誌サイトを含む多くのブログが正確性を疑問視していた。だが先日、突如として「内容が正確過ぎる」という問題が浮上した。ある陸軍軍曹が、マーク・ボールの脚本は自分の実体験を基にして書かれたものだとして関係者らを訴えたからだ。
中傷合戦はいい加減にやめにして、穏やかに授賞式を迎えてはくれないものだろうか。映画ブログ「アワーズ・デイリー」のサーシャ・ストーンは、こうしたネガティブキャンペーンは残念ながら現代のオスカーシーズンの象徴になったと指摘する。
映画会社はこのところ、授賞を目指して周到なキャンペーンを行うようになっている。アカデミー賞関連のブロガーも増え、彼らは常に新しいスキャンダルを求める(時に生み出す)ようになった。たとえ他の作品を引き離す優れた作品に打撃を与えることになったとしても、だ。
オスカーをめぐる醜くて馬鹿らしい中傷合戦は、今後さらに悪化していくだろう。以下に、近年のオスカーをめぐるスキャンダルの歴史をまとめてみた。
2009年 受賞レースは『スラムドッグ・ミリオネア』の独走状態。すると案の定、映画に登場する2人の8歳の子役に正当な出演料が支払われなかったとか、撮影現場で不当に扱われたという話が出てきた。彼らに支払われた額は、アフガニスタンを舞台にした『君のためなら千回でも』(07年)に出演した子供たちよりも少ないとの報道もあった。
2005年 『ミリオンダラー・ベイビー』が複数の部門にノミネートされると、ニューヨーク・タイムズ紙が映画の結末は脊髄損傷の患者に「間違ったメッセージ」を与えると「社会運動家」が懸念しているとする記事を掲載した。
2004年 映画会社ドリームワークスが『砂と霧の家』を後押しする不快な広告を展開した。助演女優賞は『コールドマウンテン』のレニー・ゼルウィガーではなく、『砂と霧の家』のショーレ・アグダシュルーが取るべきだと書いた批評家の記事を集めて掲載。『ハート・ロッカー』のメールと同じくルール違反とされたが、ドリームワークスは即座に謝罪。授賞式への出席を禁止される事態は免れた(結局、ゼルウィガーが受賞)。
2003年 映画芸術科学アカデミーのロバート・ワイズ元会長が、『ギャング・オブ・ニューヨーク』のマーティン・スコセッシ監督はオスカーに値するとの論説を新聞に発表。ミラマックスのハービー・ワインスタイン会長がこの論説を広告に利用した。一部のアカデミー会員は憤慨したが、結果は意外な方向に。実はワイズは自分で論説を書いておらず、映画の広報担当が書いていたことが判明。スコセッシは受賞を逃した。
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