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『フローズン・リバー』が映す貧困というサスペンス

The Suspense of Everyday Life

社会の底辺で苦しむ白人と先住民の2人の女性の過酷な人生を追った社会派サスペンスで絶賛されたコートニー・ハント監督に聞く

2010年2月5日(金)14時14分
小泉淳子

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 カナダとの国境に面するニューヨーク州最北部。この町には先住民の居留区がある。夫にカネを持ち逃げされたレイ(メリッサ・レオ)は、モホーク族の女性ライラ(ミスティ・アップハム)が密入国者を車で運びカネを稼いでいることを知る。凍った川を渡る危険な仕事だが、レイは2人の子供との暮らしを守るため、彼女と共謀して密入国に加担することに......。

 貧しい2人の女性の過酷な人生を描いた『フローズン・リバー』(日本公開中)は、08年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞。審査委員長のクエンティン・タランティーノをうならせた。初の長編作品で栄誉を獲得したコートニー・ハント監督は、アカデミー賞脚本賞にもノミネート。遅咲きながら、実力派女性監督として注目されるハントに話を聞いた。

――タランティーノが作品を気に入ると思った?

 いいえ。気に入るどころか、相手にされないと思っていた。激しいバイオレンスはないし、クエンティンが感情移入するような登場人物も出てこない。彼には意味がない映画だと考えていた。

 例えば主人公のレイが拳銃を撃つ場面では、狙いがはずれて大声を上げる。(ドラマの)『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』ではあり得ないシーンでしょう。でも銃を撃った時に必ず弾が当たるなんてほうが馬鹿げてる。
 
 2年前にサンダンス映画祭に出品したときは、映画が売れてくれればいいと、それだけを考えていた。賞なんて期待していなかった。そりゃあもちろん、席で発表を待っていたときはもしかして私が取るのかしら、なんて思ったけれど(笑)。何よりうれしかったのは、作品を見た人たちが「いい映画だった」と声を掛けてくれたこと。私にとっては賞と同じくらい価値がある。

 実はクエンティンも幼い頃、トレーラーハウスの親戚の家で暮らしたことがあるんですって。貧しい人にとっては、日常生活そのものがサスペンスなの。必死にサバイバルしなければいけない。それがクエンティンの心に響いたのだと思う。トレーラーハウスに住んでいるというだけで偏見を持たれてしまう。それを覆したかった。

――女性監督ならではの視点は意識した?

 ええ。映画全編を通じて女性の視点で描いたつもりよ。でも「女性の映画」という言葉は大嫌い。否定的なニュアンスがあるから。「女性を描いた映画」は、男性とは違う視点で物語を語ることができると思う。だからといって、男性が見ちゃいけない訳ではない。クエンティンがいい例よ。彼はこう言ったわ。僕には母がいて、僕は子供だった。だから共感できるって。

 私は男性たちが映画に何を求めているか分かってる。それに語るべきストーリーもある。だから、その2つを合体させた。サスペンスと女性の話が相容れないというのは誤りだと思う。

 これまで男性が主人公の映画が何を描いてきたかよく考えてほしい。地球を救って、地球を救って、地球を救って(笑)。それも悪くないが、他に語るベきストーリーはある。『フローズン・リバー』はすべての人のための映画よ。

――コロンビア大学で映画を学んでいた頃、女性が主人公の映画にはアドベンチャーが欠けていると言われて発奮したとか。

 とんでもない偏見よね。私の母はシングルマザーで、法科大学院に行こうと懸命に頑張っていた。おカネがなかったから、光熱費を払うのも精一杯。毎日が冒険だった。おカネをこちらからこちらへ回して、電気を止められたり、家を追い出されたりするのを阻止しなければならなかった。母は自分の目標をかなえることができたけれど、道のりは決して平坦じゃなかった。母の人生が冒険じゃないと考えるとしたら、大変な侮辱よ。よし、アクションが見たいならそれができる女性を探そう。そう思った。

――先住民社会の描写について監修は受けたのか。彼らの暗部を描いたことで批判はあったか。

 コンサルタントがいた訳ではなく、自分でリサーチをした。モホーク族の友人を作って、正直にどんな映画を撮るかを話した。彼らの文化を理解するのに6、7年掛かったわ。居留地に住む一部の人たちは密入国ビジネスが存在することすら認めようとしなかった。だから、私が存在しない出来事を映画にしようとしていることに納得できなかったみたい。

 でもその他の多くの人たちは歓迎してくれた。密入国を助ける人とそうでない人の両方を描いて、彼らに光を当てたから。それにモホーク族の俳優が13人も出演してくれた。彼らは最高だった。

――『フローズン・リバー』が公開されたことで密入国ビジネスの実態に変化はあったと思う?

 いいえ。影響を与えるほど多くの映画館で上映されたわけではないし、オプラ・ウィンフリーのトーク番組で紹介されたわけでもない。主演のメリッサ・レオはアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたし、私もオリジナル脚本賞にノミネートされた。でも、内在するテーマにメディアが注目するほどではなかった。映画に何か力があるとすれば、それは個人の内面に働きかけるものだと思う。一人一人の内なる体験を変えるものね。

――あなた自身に影響を与えた映画は?
 
 たくさんある。特に好きなのはマーティン・スコセッシの『アリスの恋』やテレンス・マリックの『地獄の逃避行』、ウォルター・サリスの『セントラル・ステーション』。それからルクレシア・マルテルの『聖なる少女』。マルテルの映画は私の作品に直接関係があるわけではないけれど、その大胆な語り口は私に刺激と勇気を与えてくれる。

――『フローズン・リバー』では貧しい白人や先住民の暮らしなど、社会の知られざる一面を描いた。日本で映画を撮影するとしたら、何をテーマに選ぶ?

 日本では裁判員制度が始まったばかりなのでしょう? すごく興味ある。表面上は犯罪のないように見える。夜の11時に道路を歩いても安全なんて、他の国ではあり得ない。その裏の顔を捉えてみたい。

『フローズン・リバー』の予告編はこちら↓
http://ch.yahoo.co.jp/movie-astaire/index.php?itemid=2


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