韓流に染まるハリウッド
Korea Takes Hollywood
ハリウッドで韓国系俳優の活躍が目立ってきたが、ステレオタイプな配役など文化の壁はまだ残る
90年代後半、アジアに押し寄せた韓流の波。メロドラマから映画、音楽まで、アジアの人々は韓国のカルチャーと二枚目スターに夢中になった。それでも、その波がアメリカまで届くことはなかった。せいぜい『イルマーレ』『箪笥』といった韓国映画のリメーク版が製作されたくらいだ。
ところが最近は、韓国系俳優がアメリカのTVや映画で勢いを見せている。04年にキム・ユンジンとダニエル・デイ・キムがテレビドラマ『LOST』でブレイクし、『グレイズ・アナトミー』のサンドラ・オー、『HEROES/ヒーローズ』のジェームズ・カイソン・リーがそれに続いた。
今年になって、韓国系アメリカ人ダニエル・ヘニーが『ウルヴァリン:X│MEN ZERO』で悪役エージェント・ゼロを演じ、米CBSの医療ドラマ『スリー・リバース』にも出演中。イ・ビョンホンは映画『G.I.ジョー』で悪の組織の一員になった。ジョン・チョーは映画『スター・トレック』のヒカル・スールー役に続いて、米ABCのSFドラマ『フラッシュフォワード』でFBI(連邦捜査局)捜査官を演じている。
次の注目株はピとして知られるチョン・ジフンだ。アジアではスーパースターの彼も、世界的にはほとんど無名。しかし11月25日全米公開の大作映画『ニンジャ・アサシン』(ジョエル・シルバー、ウォシャウスキー兄弟製作)で主演に抜擢された。
ハリウッド映画の大役に韓国系俳優を起用するのは、ビジネス上の理由もある。チョンらが絶大な人気を誇るアジアは映画観客数が増加している、世界でもまれな地域だ。特にハリウッド映画にとって韓国は重要市場で、イギリスでの興行収入を上回ることもある。映画情報サイト、ボックス・オフィス・モジョによると今夏の『G.I.ジョー』の場合、アメリカ以外で最高の興行成績を挙げたのは韓国だった(1320万ドル)。
アジアで実績のある韓国人監督にも、ハリウッドから声が掛かる。しかし、当の監督たちはあまり乗り気でない。「韓国でもトップクラスの監督なら自国ではどんな映画も自由に制作できる」と、映画会社バーティゴ・エンターテインメントのプロデューサーで、韓国系アメリカ人のロイ・リーは言う。「(アメリカの)映画会社と組めば、思うようにはできなくなる」
オーディションの抵抗感
アジア出身の俳優がハリウッドで成功するには、文化の壁を乗り越えなければならない。英語をマスターし、映画会社幹部との人脈づくりもある。役の獲得プロセスも違う。「アジアではほとんどの場合、オーディションは行わない」と、タレントエージェンシーのウィリアム・モリス・アジアの元取締役グレース・チェンは言う。「アメリカでオーディションを受けるのは、アジアの大スターにすればかなり抵抗感がある」
そして今でもアジア人俳優には、「武術の達人」という型にはまった役が多い。「映画の配役にはまだ固定観念が存在する」と、『ニンジャ・アサシン』のチョン。「アジアには独特の幅広い文化がある。武術に関心のある人がほかの文化より多いだけだ」
しかしそれも変わりつつある。韓国人俳優がラブストーリーの主役を張るには時間がかかるかもしれないが、韓国文化はテレビや映画に少しずつ入り込んでいる。「これまでは日本文化がよく出てきた。登場人物が寿司を食べたり日本語を話したり。最近はそれが韓国文化に代わってきた」と、韓国人脚本家のシンホ・リーは言う。
映画制作の現場でも韓国系アメリカ人の存在感が増していると、バーティゴ・エンターテインメントのリーは指摘する。「ハリウッドでは、どのアジア系よりも韓国系が多く働いている」。特にカメラの前ではそうだろう。
[2009年11月25日号掲載]