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00〜09年の忘れ難い映画ベスト10

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(7)『硫黄島からの手紙』(2006年)と『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)

 70歳を過ぎてむしろ活力が増したクリント・イーストウッド監督は、信念を曲げることなく本当に作りたい映画だけを製作しようと快進撃を続けている(いったいどんなビタミン剤を飲んでいるのだろう?)

 監督として波に乗ったのは03年の『ミスティック・リバー』以降だが、私にとっての最高傑作は、観客の心に強烈なパンチを浴びせるボクシング映画『ミリオンダラー・ベイビー』と、第二次大戦の過酷な戦場を日本人の視点から描いた『硫黄島からの手紙』だ。後者は偉大な反戦映画として記憶されることだろう。

 イーストウッドはハリウッドの伝統的な職人魂を21世紀にもちこんだが、ニュージーランド出身のピーター・ジャクソン監督とデジタル技術チームが生んだ驚愕の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作も忘れられない。また、イギリス人監督のポール・グリーングラスは『ボーン・アルティメイタム』(07年)は、経験したことがないほど大量のアドレナリンが湧き上がるアクション大作。シリーズもののアクション映画の撮影と編集手法を根本的に変えた作品でもある。


(8)『ダーウィンの悪夢』(2004年)

 想像をはるかに超える衝撃的で刺激的なドキュメンタリー。ベルギーの若手監督フーベルト・ザウパーは、アフリカ東部タンザニアのビクトリア湖畔にビデオカメラを持ち込んだ。その湖では、半世紀前に放たれた巨大な肉食の外来魚ナイルパーチが周辺地域の環境と経済を一変させていた。

『ダーウィンの悪夢』は1匹の魚から始まり、グローバリゼーションがもたらす深刻な影響や先進国と途上国との不穏な関係へとテーマを拡大する。それでいて、全編を通して個人的な視点が失われることはない。

 ザウパーのインタビューは売春婦や政治家、漁師、ビジネスマン、そして旧ソ連のパイロットにまで及ぶ。彼らはナイルパーチをヨーロッパに空輸し、代りにアフリカ各地の内戦で使われる武器を運んでくる。

 ザウパーの作品は、マイケル・ムーア監督の『華氏911』(04年)やアル・ゴア元米副大統領の『不都合な真実』(06年)などの大ヒットドキュメンタリーに比べれば、わずかな観客しか動員できなかったかもしれない。それでも、この10年の優れたノンフィクション映画のトップにすえるべき作品だろう。


(9)『ハート・ロッカー』(2009年)
 
 今年、イラク戦争を描いた傑作を生み出したのは、女性監督のキャスリン・ビグロー。ジェレミー・レナー演じる爆発物処理班のスペシャリストは、勇気と狂気が紙一重の複雑な人物。戦争中毒で、危険にさらされてアドレナリンが噴出する状態に病みつきになっている。

 冒頭からエンディングまでずっとサスペンスで引き込むため、観客は自分も戦争中毒になったような錯覚に陥る。女性がアカデミー賞最優秀監督賞に選ばれたことは一度もない(ノミネートでさえめずらしい)が、いよいよそのときが来たようだ。

 
(10)『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)

 カザフスタン人ジャーナリストがアメリカで騒動を巻き起こすこの異色のコメディーほど大笑いした映画はほかにない。あらゆる人を怒らせる『ボラット』は、リアリティ番組全盛の時代にぴったりだ。

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