バンパイアに抱かれたがる女たち
Bite Me! Why We Love Vampires
テレビで映画で小説で吸血鬼が大人気。ブームの裏には女性の「好きにされたい」願望が
頭が良くて、ユーモアがあって、背が高い。ケンドラ・ポーター(27)が男性に求めるのは、この3つ。ぬくもりのある生身の人間であることは、言わずもがなの条件だった。
だからポーターは、自分に驚いている。いま彼女が夢中な相手は、バイキングの血を引く1000歳の吸血鬼エリック。米ケーブルテレビ局HBOの人気ドラマ『トゥルー・ブラッド』に登場する超美形のキャラクターだ。
「これまでまったく興味がなかったのに、今は毎日が吸血鬼を中心に回ってる」と、ポーターは言う。「私にかみついてって、お願いしたいくらい。もちろん、いい感じの意味でね」
吸血鬼はこれまで何世紀も、人々に不思議な魅力を振りまいてきた。でも、最近ホットな吸血鬼たちは今までとはちょっと違う。最大の魅力はセクシーなこと。そこに女性たちが参っている。
何しろ広告業界がブームに便乗するほどだ。ジレットの広告では「死ぬほどセクシー」というコピーの横で、イケメン吸血鬼がきれいに剃った顔をなでている。マーク・エコーの男性用香水の広告では、女性の首に牙を立てる男の写真に「人間をとりこにしろ」というコピーが躍る。
映画もドラマも小説も、ファンクラブも増えている。CWテレビは9月に、ティーン向けのドラマ『バンパイア・ダイアリーズ』をスタートさせる。毎年夏にサンディエゴで開かれるポップカルチャーの祭典「コミック・コン・インターナショナル」でも、今年は吸血鬼関連のイベントが盛りだくさんだった。
8月にはハリウッドで、吸血鬼だけをテーマにした初の大規模イベント「バンパイア・コン」が開かれる。ここでは「バンパイア映画祭」はもちろん、『トゥルー・ブラッド』のスタッフも参加するパネルディスカッションや、セクシーなダンスグループ「バンパイアエロチカ」が登場する「死の舞踏会」が予定されている。
「吸血鬼は大変な人気」と語るのは、バンパイア・コンの広報担当ハイディ・ジョンソン。「うちのおばあちゃんまで夢中よ」
コンドームもちゃんとつける
吸血鬼とセックスが結び付けられたきっかけは、アイルランドの作家ブラム・ストーカーが1897年に発表した『吸血鬼ドラキュラ』だった。この作品でドラキュラ伯爵は、2人の若い女性に牙を立てる。
『トゥルー・ブラッド』が大ヒットする前にも、魅力的な吸血鬼を描いた映画やドラマはたくさんあった。92年のフランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ドラキュラ』では、ゲーリー・オールドマンが一風変わったドラキュラ伯爵を熱演。94年の映画 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』では、トム・クルーズとブラッド・ピットが吸血鬼を演じた。
しかし、いま人気の吸血鬼はセクシーなだけではない。女性たちに本当にセックスしてみたいと思わせるところがある。
近頃の吸血鬼たちは、ある意味で牙を抜かれている。コンドームもつけるし、太陽の下で爽やかな笑顔を見せたりもする。人間ぽくなった吸血鬼は、10代前半の少女たちまでとりこにしている。
『トゥルー・ブラッド』のエグゼクティブプロデューサーを務めるアラン・ボールに言わせれば、彼のドラマは「この社会に居場所を見つけようとする人々の物語」でもある。「吸血鬼はこれまでずっと怖がられ、誤解され、アウトサイダーとして扱われてきた。そこが面白いと思った」
セックスアピールと危険な香り。女性たちが吸血鬼に憧れる最大の理由はその2つのようだが、もっと大きな要因もありそうだ。
「経済危機が起きて誰もが不安を抱える時代に、吸血鬼の寓話は強烈なインパクトを持っている」と語るのは、オーロラ大学(イリノイ州)で「文学、映画、大衆文化の中の吸血鬼」という授業を持つドノバン・グウィナー准教授。「いつも冷静で、永遠の命を持ち、信じ難いほど魅力のある存在がこんな時代に受けるのは、まったくおかしなことじゃない」
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