最新記事
教育

海外で生活保護中でも奨学金返還が免除されない! 日本学生支援機構の督促に苦しむ海外邦人の悲鳴

2023年4月7日(金)16時40分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)
日本学生支援機構の給付型奨学金確認書

日本学生支援機構の給付型奨学金確認書

<大学全入時代と言われる一方で、学費の負担は重くのしかかって──>

日本の教育費は高額だ。そのため独立行政法人日本学生支援機構(以下、JASSO)の奨学金を利用する学生は多い。JASSOの調査(JASSO学生生活調査、24ページ)によると、2020年度は大学生の38.9%が奨学金を借りた(給付+貸与、併用貸与......無利子の第1種と有利子の第2種、第1種貸与、第2種貸与の合計)。

毎月いくら借りていたかにより、貸与総額は約100万~500万円以上と幅がある。卒業後、それを月額1万円弱~2万円強にして10~20年かけて返すが、返済が困難になってしまう人もいる。その催促は厳しく、返済しなければ、たとえ海外に住んでいても「返済せよ」と通知が追いかけてくる。日本で大学院まで通い、今はヨーロッパで暮らすK氏がその実態を語ってくれた。

バイトしながら勉強 ロールパン1個で食べつないだ日も

K氏は母子家庭で育った。経済的余裕がなく奨学金を借りて高校に通った。成績優秀で、大学は学費が半額になる特待生枠に合格した。母親との約束で、寮費、生活費、学業にかかる一切の費用を自分で賄うことに。K氏は再び奨学金を借り、授業のない時間の多くをバイトに費やした。

究極に苦しい時期には使えるお金が数百円さえなく、食事はロールパン1個という日もあった。そんなときはバイト先でレジ内に詰まった現金を見て、「このお金があったら、満足に食べられるのに」と何度も思ったそうだ。空腹感はとてつもなかったが、敬虔なクリスチャンのK氏は、母の教訓の「武士は食わねど高楊枝」の言葉も思い出し強い精神力で耐えた。

コロナで失業、返済困難に

K氏は在学中に夢だった留学を果たし(資金は全給付)、目標としていた海外青年協力隊参加も卒業と同時に実現できた。ときに体調を崩しつつも、バイトに授業、それらの準備に全力疾走していた様子を聞けば、報われて当然だったともいえる。

そして協力隊から帰国後に就職し、奨学金の返済が始まったが、国際協力の分野でもっと活躍するには大学院で学ばなくてはと進学を決めた。やはり成績優秀で、大学院にも学費半額の特待生で入学。K氏はJASSOから3度目の奨学金を借りた。大学院在学中は、高校・大学時の奨学金の返済は保留(返還期限猶予)できた。

院を終了したK氏は国際協力の仕事に就き、奨学金の返済を再開した。数年後に転機が訪れた。人生のパートナーとともに海外移住を決め、現地国でパート勤務後、パートナーと共に起業したのだ。奨学金の返済は当然のことだったから海外にいても払い続けていた。しかし経営が悪化し、返済に手が回らなくなってしまった。返済保留手続きを再度取ったのはよかったが、問題はその後に起きた。

経営がさらに傾き、パートナーと別れ、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、事業を支えようと続けていた副業先から解雇されてしまったのだ。月約3万円の失業手当は給付されたものの、住む家を失って友人宅に長期間滞在せざるを得なくなった。


試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中