最新記事

高齢化

健康寿命の延伸とは──マイナス面への配慮も必要

2020年12月14日(月)18時15分
三原 岳(ニッセイ基礎研究所)

第3に、健康づくりを国が強調し過ぎるマイナス面であり、「健康は義務ではない。権利です。健康は義務だという考え方はナチズムと通じる」という批判批判が出ている*2。ここで言う「ナチズム」は少し唐突かつ不穏な印象を受けるが、生まれて欲しい人や長生きして欲しい人を人為的に選別する「優生思想」と言い換えてもいいだろう*3。優生思想は戦間期に国内外で注目された考え方であり、日本を含めて世界各国で当時、障害者の断種政策などが実施された。

優生思想は現在、否定されているが、国民に対する強制力を持つ政府が健康寿命の延伸を言い過ぎると、不健康な人が社会から排除されるリスクを伴う。こうした優生思想的な側面は健康寿命のマイナス面として認識する必要がある。

おわりに

心身ともに「健康」に長生きしたいという願望は自然な感情であり、情報提供や場づくりなどを通じて健康増進に関する国民の選択肢を広げることは意義深い。

ただ、難病患者や重度障害者などが生きにくさを感じるなど、健康づくり政策のマイナス面に配慮する必要がある。

なお、弊社HP「ジェロントロジーを学ぼうコーナー」でも「健康寿命」を幅広く捉え、要介護状態の高齢者が自己決定できる環境づくりなども取り上げている。

────────────────
*2 2019年1月27日『BuzzFeed News』、日本福祉大学名誉教授の二木立氏インタビュー。
*3 米本昌平ほか編著(2000)『優生学と人間社会』講談社現代新書。
※「障害」を「障がい」とするケースもあるが、本稿の表記は法令に沿った。


Nissei_Mihara.jpeg[執筆者]
三原 岳
ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国不動産株が急伸、党中央政治局が政策緩和討議との

ビジネス

豪BHP、英アングロへの買収提案の改善検討=関係筋

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中