最新記事

インタビュー

「坂バカ」俳優・猪野学「自転車にも人生を変える力がある」

2020年5月1日(金)16時05分
朴順梨(ライター)

Photograph: Newsweek Japan

<30代半ばで自転車の奥深さに目覚め、今では「坂バカ」と呼ばれる俳優の猪野学さん。NHKの自転車情報番組にレギュラー出演、世界一過酷なヒルクライムレースも走破し、ついには「自転車自己啓発(?)本」を出版した。自転車の魅力って何ですか?>

「バカ」という言葉は、決していい意味を持たない。何かに熱中している人を指す「〇〇バカ」も、どこか相手を嗤(わら)うニュアンスが込められている。しかし例外もある。それが「坂バカ」だ。

俳優の猪野学さんは、30代半ばで手にした自転車の奥深さに目覚め、46歳で世界一過酷と言われるヒルクライムレース(山や丘陵の登り坂で行われる自転車レース)を走破した。そんな彼を人は敬意と賞賛を込めて「坂バカ俳優」と呼ぶ。坂バカとはまさに、リスペクトの言葉なのだ。

トレーニング、人とのかかわりで得られる成長、そして本番のレースと、これまでの坂バカ人生をまとめたエッセイ集『自分に挑む!――人生で大切なことは自転車が教えてくれた』(CCCメディアハウス)を昨年末に出版した猪野さんに、自転車の魅力をたっぷり語ってもらった。

cyclebook20200501-2.jpg

『自分に挑む!』口絵より Photo:中村彰男

10年乗ってもまだまだ余白がある


雨が降っても現場には合羽を着て自転車で行きます。

猪野さんはこの日も指定した場所に、ヘルメットとサイクリングバッグ持参で現れた。マネージャーとは別々に移動し、現場で落ち合うことにしているという。自転車が好きで坂が好きな猪野さんだが、競技用自転車との出合いは2007年と、意外と最近だ。


それまでビッグスクーターで移動していたんですけど、2006年に道路交通法が改正されて、バイクの路上駐車取り締まりが厳しくなった。それで自宅近くの駐輪場に停められなくなったんですけど、引っ越すのもどうかと思って。

バイクが10万円で売れたので、ちょっといい自転車を買おうかなと。原付でもよかったんですけど、なぜか町乗りもできるクロスバイクを買うことにしたんです。

子供の頃に乗っていた自転車とは軽さも性能もスピードも段違い。しかも渋滞もないし、運動にもなる。まさにいいこと尽くめの自転車に、すぐにハマってしまった。これまでもスキーや空手などさまざまなスポーツをしてきたが、自転車は「10年やってもまだまだ気付くことばかりで、奥が深過ぎる」と感じている。


普通はひとつのことを10年もやってたら、飽きるじゃないですか。それが全然飽きなくて。まだまだ自分の中に余白があることが分かるんです。

この間スペインに行ったんですけど、スペインで自転車に乗っているとき、小指に力を入れるだけで身体の使い方が変わってくるのに気付いた。胸椎の角度で呼吸の仕方が変わってくるとか、ペダリングひとつであってもどこに力を入れるかで変わってくる。

そういう点では、本当に厄介なスポーツです(笑)。でもそこが魅力です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中