最新記事

サバイバル

無人島にたどり着いた日本人たちがたらふく味わった「牛肉より美味い動物」とは?

2021年9月7日(火)20時25分
椎名 誠(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

アオウミガメの肉を焼いて煮ると牛肉よりうまい

やがて炊事班が大急ぎで作った、島で最初の「めし」が用意された。島には正覚坊(アオウミガメ)が沢山いた。甲羅の大きさが直径1メートルもある。それを焼いた肉と海水で煮た潮煮は牛肉よりもうまかった。空腹の極みにきていたのでみんなむさぼり食った。

翌日の食事が終わったあと航海士が「みんなの知っているとおりコメは2俵しかない。これをできるだけ長くもたせるために次のめしから重湯にして1日に3度飲むことにして、あとは魚やカメの肉で腹を作ってほしい」

そう言い、全員がうなずいた。

そしてその日から全員服を脱いでそれはなにかのときのためにちゃんとほして乾燥させ、大切に保管し、ずっとハダカで生活することにきまった。

またもや全員がうなずいた。

さらに翌日から蒸留水を作ることをやめた。考えた以上に沢山の燃料がいることがわかったからだった。そのかわりしばしば降ってくる雨(スコール)を天幕でうけとめ、1カ所にあつめて石油缶に保存し、井戸水にまぜて飲むようにした。

火もマッチに頼っていたのでは直に使い切って悲惨なことになる。そこで晴れている日は双眼鏡の凸レンズを使って太陽光線から火を作るようになった。けれどこれも晴れていないと役にはたたない。そこで空き缶の中に砂をいれ、そこにアオウミガメから採った油をつぎこんで、油のしみこんだ砂の上に灯心を差し込み、火をつけると立派な行灯になった。風に消されないように缶詰をいれてあった木箱でまわりに枠をつくり帆布の幕を垂らすと自由に持ち運べる万年灯になった。

アザラシの群れには手を出さないルール

初日に捕まえたアオウミガメがなくなると魚釣りに集中した。16人のなかには釣り名人がたくさんいた。ヒラガツオ、シイラ、カメアジなどがいくらでも釣れた。魚は刺し身にするのが手間も燃料もいらないからいちばんありがたく、焼き魚、潮煮やシャベルの上でカメの油で炒めたものなどを食べた。

島の北側から砂浜続きに小さな出島のようになっているところがあった。その出島をねじろにしているのは大小のアザラシだった。アザラシは魚とりの名人だ。魚をとるときはみんなで潜って沢山食べ、満腹すると半島のあちらこちらに上がってきて日にあたってのんびりしている。全部で30匹ほどいたがやがて仲よくなっていった。

その群れを見て船長は、

「あのアザラシには当面なにもしないようにしよう」

と言った。人間たちが食べるつもりでかれらを襲えば最初のうちは何頭か捕獲することはできる。でもそれによってアザラシが用心、および敵対してみんなどこかに行ってしまうのではまずい。彼らは人間に何もしないのだし、我々も何もしない。でももし我々がまったく何も食べるものがなくなって飢え死にしそうになったとき、彼らを食べてしばらく生き延びることができるかもしれない。

だから、たとえ捕まえるわけではないにしてもあのアザラシ半島に無闇に入り込んでいくのはやめよう。

船長はそういうことを決まりごとのひとつにした。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中