脳を健康にするという「地中海食」は本当に効果があるか
食習慣は認知力に長期的な影響を与えるが、野菜やフルーツ、シリアル等を多く採る話題の食事法は果たして
脳によい食事 研究では、地中海食に忠実に従うと軽度認知障害になるリスクが低下した Tijana87-iStockphoto.com
「大人になると神経細胞は再生しない」――最近までそう信じられていた。脳の機能は年齢とともに低下するばかりだと。ところが近年、生きている脳の活動を「見る」ことができる技術が登場し、脳科学が飛躍的に発展。「脳は鍛えることができる」という発見が広まった。
日本では2005年に「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(脳トレ)がブームになり、アメリカでも2007年にPBS(公共放送)で「ザ・ブレインフィットネス・プログラム」というスペシャル番組が放送されるなどして、脳トレーニングの関連市場が立ち上がった。ちなみに「脳トレ」は、米欧や韓国などでも発売されている。
その後、さまざまな報道や研究発表、商業的な主張が入り乱れ、混乱と誤解が広まったのも事実だ。それでも、「脳は鍛えることができる」あるいは「脳の活性化に好ましい習慣や行動がある」といった点については、一般に認められるようになったと言えるだろう。
そうした「ブレインフィットネス」分野の最新の知見をまとめたのが、『脳を最適化する――ブレインフィットネス完全ガイド』(山田雅久訳、CCCメディアハウス)だ。神経科学における健康管理と教育手法を専門とするマーケットリサーチ会社、シャープブレインズの最高経営責任者であるアルバロ・フェルナンデスと、同社の最高科学顧問エルコノン・ゴールドバーグ、そして認知心理学博士のパスカル・マイケロンが著した。
「ブレインフィットネスとは、クロスワードパズルを何回か余計にやることでも、朝食でシリアルと一緒にブルーベリーをたくさん食べることでも、少し長い距離を歩くことでもない」と、本書では述べられている。運動から食事、瞑想、レジャー、人間関係、ストレス、脳トレまで、あらゆる側面から脳を「最適化する」具体的アドバイスを盛り込んだという本書から、「Chapter 4 私たちはほぼ食べたものでできている」を抜粋し、3回に分けて掲載する。
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『脳を最適化する
――ブレインフィットネス完全ガイド』
アルバロ・フェルナンデス、エルコノン・ゴールドバーグ、
パスカル・マイケロン 著
山田雅久 訳
CCCメディアハウス
身体的な健康は、身体エクササイズと栄養素によって大きく左右される。前章では、身体エクササイズが、脳を健康にするためにも大切な要素であることを確かめてきた。
それでは、栄養素はどうか? 脳がどう働き、どう成長するかに栄養素は影響しているのだろうか? もし影響するなら、どんな食物や栄養素が脳の健康によいのだろうか?
思考するための食物
ここでなぞなぞをひとつ。もし、青い染料を私たちや動物の血管に注射したら、なにが起きるだろうか? ご想像のとおり、全身の組織が青くなっていく。しかし例外があって、脳と脊髄は青くならない。それは、血液のなかを流れるある種の物質――バクテリアなど――が脳に侵入するのを防ぐ血液脳関門があるからだ。半透性の血液脳関門は毛細血管に沿って存在し、毛細血管の周囲にタイトな防御壁を作っている。脳内が一定の環境を保てるように働き、一方で、重要な分子が脳内に拡散するのを許している。
血液脳関門を通過することが許されるふたつの重要な分子が、酸素とグルコースだ。脳は全体重の2%しか重量がない。しかし、要求するエネルギー量がとてつもなく大きい器官であり、心臓が拍出する血液の15%を受け取っている。それは、全身で消費している酸素の20%、同じく、全身で消費しているグルコースの25 %を使っていることを意味している。別のアングルから説明すると、動脈血からおよそ50%の酸素と10%のグルコースを抜き取っている。その小さなサイズから考えると信じられないほどの量だ。
糖類のひとつであるグルコースが脳の燃料の源泉になる。脳細胞にはグルコースを貯蔵する力がないので、血液が運んでくるグルコースを頼みとしている。血液中のグルコースは、そのほとんどが炭水化物由来だ。炭水化物はでんぷんと糖でできていて、私たちはそれを、穀物、フルーツ、野菜、乳製品の形で摂り入れている。