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「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

2024年5月17日(金)11時55分
高口康太(ジャーナリスト)

日本人が知らない「EV普及のカギ」

中国では2021年からEVの販売台数が爆発的な増加を始めた。

その10年近くも前から中国はEV普及を国家政策として打ち出し、多額の補助金をぶちこんできたが、さっぱり売れなかった。「EVを売ったふりをして、補助金だけせしめる詐欺」が横行したほどの惨状で、中国国内でもEV振興はあきらめるべきとの声が上がっていた。

その状況が一変した理由が知りたいところだが、何かが決定打になったというよりも、もろもろの条件が重なったというほうが実態に合っている。EVの性能が改善されて普通に使えるようになったし安くなった、テスラの成功でEVのイメージが変わった......などなど。

見落としてはならないのは「EVという新しい製品の普及に伴う、あれやこれやのトラブルを一つずつ潰していった」という地道な足取りだ。

前述の保険問題についても、保険会社はEV自動車保険から逃げ出したいところを政府が介入。任意保険については一定の値上げを認めつつも、強制加入の交強険(日本の自賠責に相当)の加入を拒否することは許さないとのお触れを出している。

こうした細かい問題解決は無数にある。個人的に印象深いのは、「マンション管理会社は充電設備設置を拒否してはならない」というお触れだ。

EVは自宅だと時間はかかるがお安く充電できる。しかも、EVメーカーが購入特典として無料で充電設備を配っていることも多い。となると設置しない理由はないのだが、工事が必要、電力使用量が増えるなどの理由でマンション管理会社が嫌がるといった問題が起きていた。これまた、政府のお触れで充電設備の設置を拒否してはならないことを明確にした。

日本でもマンションの駐車場に充電設備を設置するとなると、管理組合の同意を取り付けるなど大変。あきらめて充電は公共充電ステーションに頼る人もいる状況だが、この問題への対策が検討されているとは聞いていない。

新しい技術の普及には必ず軋轢がある。ましてや自動車という、一大社会インフラの改革なのだから、思ってもみなかったトラブルが続々と発生する。そうしたトラブルを一つずつ潰していった結果として、中国でEVが売れるようになっている。

これが中国のEV業界を追っかけていて一番痛感しているところだ。

動画やまとめサイトで出回っている「EVオーナーのヤバすぎる末路」的な話だと、「全固体電池(*)開発で日本自動車メーカーが大逆転! 中国メーカー涙目」というオチがセットになっていることが多い。

*全固体電池:安全性・信頼性が増し、充電に要するスピードも速くなる次世代EV用電池。世界で実用化に向けた努力が進むが、日本勢が先行しているとされる。

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