最新記事
福祉

「障害者福祉で儲けるなんて...」そんな社会通念を吹き飛ばせ! 芸術×ビジネスの福祉実験カンパニー

MORE THAN JUST A BUSINESS

2024年4月4日(木)16時17分
岩井光子(ライター)
芸術×ビジネスで世界を変える

作品が飾られた岩手のホテル COURTESY OF HERALBONY

<障害のあるアーティストの作品で多くのビジネス・コラボを展開。「岩手から世界へ」障害のある人に対する偏見をなくすヘラルボニー社の挑戦>

異彩を、放て──。

この言葉を使命に掲げる岩手発の福祉実験カンパニー、へラルボニー。知的障害のあるアーティストや福祉施設と契約を結び、作品を高解像度データで保存。

他社のプロジェクトや自社ブランドの衣服などにデータを使用するたび、作家にライセンス契約料や物販売り上げの一部を支払う事業を軸にビジネスを展開する。

既存作品のデータをやりとりするので作家に負担はかけず、継続的な収入にもなる。彼らの卓抜した画力に正当な報酬を支払うと同時に、障害がボトルネックにならないよう配慮された仕組みだ。

創業は2018年。共同CEOの双子の兄弟、松田文登と松田崇弥には知的障害を伴う自閉症の兄・翔太がいる。当事者家族として兄に対する世間のまなざしを変えたい思いが最大の起業動機だ。

ただ、障害のある作家の作品でIP(知財)ビジネスを行う試み自体は目新しくなく、これまでも主に非営利団体が取り組んできた。

へラルボニーが際立っているのは、「福祉で儲けるなんて」という社会通念を吹き飛ばすがごとく、福祉や支援の文脈ではなく、資本主義のど真ん中でビジネスをしているところだ。

松田兄弟は「経済的な成功を求めて起業したわけではない。でも社会的インパクトを追求することで、結果として経済的インパクトを生むのなら、協業してくれる企業や団体は増えていくはずだ。逆もまた然り」と自著で述べる。

newsweekjp_20240403035836.jpg

謎の言葉「ヘラルボニー」を生み出した兄・翔太(中央)と座る松田兄弟 COURTESY OF HERALBONY

事業の急成長で23年までの2年で契約作家や施設へのライセンス料の年間総支払額は8.7倍となり、確定申告をする作家も現れた。月給約1万6000円で就労継続支援事業所で働く障害を持つ作家の家族から「奇跡が起きている」という声も上がっている。

会社設立直後は、期待したほど事業が伸びず、資金減に苦しんだ時期もあった。

例えば老舗洋品店・銀座田屋と商品化したネクタイは作家の細かな筆致の再現にこだわった力作だが、1点3万5000円程度と高価で販路も限られていた。知名度や社会的評価が十分でない作家の作品をデザインした商品が、なぜ高額なのか──。その思いを分かってもらうまでの道のりは想像以上に厳しかった。

しかし結果的に資本主義の中でもがいたことが、その後のへラルボニーにとって追い風となった。18年、パナソニック・グループの研究開発施設であるパナソニック・ラボラトリー東京で契約作家の作品がインテリアに採用されると大きな案件が次々に決まり、一気に流れを引き寄せた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中