最新記事

経営

コスト増を理由に値上げを取引先から言われたら... 違法にならない対応方法

2022年12月27日(火)11時05分
堀田陽平 ※経営ノウハウの泉より転載
価格交渉

PeopleImages-iStock.

<価格改定は交渉事。応じないことが直ちに違法になるわけではないが、注意すべき法律がある。下請法だ。弁護士が解説する>

ウクライナ情勢や円安などの影響で、原油を始めとするエネルギー、原材料価格の高騰、さらには最低賃金の引上げや人材獲得競争の激化による人件費の高騰などにより、企業の事業活動に要するコストが増加しています。

こうしたコスト増加に対して、下請構造の中で発注事業者が下請事業者へ価格を転嫁せず、下請事業者にコスト増加の負担を押し付ける例が見られることから、国は、適切な価格転嫁等によりサプライチェーン全体でコストを負担していくことが重要であるとして、適切な価格転嫁の実施を促しています。

そこで、今回はこうした国の動向を踏まえて、取引先からコスト増加を理由として価格交渉を受けた場合、どう対応すべきかを解説します。

価格改定は「交渉事」であることが基本

価格改定はまさに交渉事です。したがって、原則的には価格改定に応じるか否かは任意であり、必ずこれに応じなければならないというわけではありません。もっとも、契約上、「〇〇の場合には、価格を〇〇とする」というような合意が予め定められているような場合には、この合意にしたがって、価格を変更する必要があります。

契約上よく見られる条項は、「〇〇の事情がある場合には、双方協議の上、価格を改定する」といった内容です。これは、「協議をすること」は定められているものの、「価格改定に応じること」は定められていないので、このような文言があっても、価格を改定する義務はありません。

つまり、"価格改定に応じるか否かは交渉事であり、これに応じないことが直ちに違法になるというわけではない"というのが基本的な考え方です。

ただし下請法には要注意

上記のとおり価格改定は交渉事であり、基本的には自由競争の問題です。ただし、取引上の力関係などから不当に圧力をかけ、自由競争をゆがめるような場合には「下請代金支払遅延等防止法」(以下、下請法)が問題となります。下請法は、独占禁止法上で禁止されている"優越的地位の濫用"の適用を補完する法律であり、その適用範囲は、明確に定められています。

■1:下請法の適用がある取引

まず、下請法の適用対象となる取引は、以下の取引に限られます。ここでは、下請構造にあることが必要であり、そうではない単純な外注は含まれません。

(1)製造委託:事業者が他の事業者に対し、物品等の規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランドなどを指定して製造(加工を含む。)を依頼すること

(2)修理委託:物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託すること

(3)情報成果物作成委託:ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、他の事業者にその作成作業を委託すること

(4)役務提供委託:運送やビルメンテナンスなどの各種サービスの提供を営む事業者が、請け負った役務を他の事業者に委託すること

(参考記事)「売掛金が回収できない...」弁護士が解説する売掛金の回収方法と予防策

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、英BBCに10億ドル訴訟警告 誤解招く

ワールド

サルコジ元仏大統領を仮釈放、パリの裁判所 10月に

ワールド

シリア暫定大統領、米ホワイトハウス訪問 米政策の転

ワールド

インド首都で自動車爆発、8人死亡 世界遺産「赤い城
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中