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インタビュー

オフィスデザインに訪れた「第四の波」とは何か

[ジェレミー・マイヤーソン]ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン、RCA 特任教授

2017年10月26日(木)18時36分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<ジャーナリストとして「オフィス」に関心を持ち、その後、研究者に転じたジェレミー・マイヤーソン氏。「ロンドンが世界のオフィスデザインの中心」と言う彼が見る、これからの時代のワークプレイスとは>

私はもともと建築とデザインを専門とするジャーナリストでした。特に関心があったのが「オフィス」です。活動を始めた1970年代後半、多くの人々が1日の大半を過ごす場所であるにも関わらず、オフィスは小売や公共の建物に比べてはるかに注目度が低かった。そこに焦点を当ててみたいと思ったのが、そもそもの動機でした。

ビッグバンでロンドンが世界のオフィスデザインの中心に

オフィスへの興味をさらに掻き立て、より深く探求したいと考えるようになったのは1986年の出来事がきっかけです。この年に私は雑誌『デザインウィーク(Design Week)』を立ち上げたのですが、同年にイギリスで財務規制緩和、いわゆるビッグバンが起こり、世界中の金融機関がロンドンに集まってきたんです。その結果、ロンドンは世界のオフィスデザインの中心となりました。

デザインウィークの取材を通じて、ノーマン・フォスター、リチャード・ロジャーズ、フランク・ダフィー、ジョン・ワーシントンといった、ワークプレイスデザイン理論の形成に多大な影響を与えた建築家と出会うことになり、もっと勉強したい、専門家としてこの分野を極めていきたいという思いが募っていったんです。

そこで母校のロイヤル・カレッジ・オブ・アートに戻って2年間の修士課程を修めました。修士論文のタイトルは「仕事の美学」です。倫理観が仕事の美学にどのように影響していたのか、そしてそれが仕事の未来にどうつながっていくかを論じました。そうやって学問の世界にも活動の場を広げてきたわけです。

ユーザー指向のソーシャル・デモクラティック・オフィス

これまでのワークプレイスの変遷を振り返ると、大きく3段階に分けられます。

第一の段階はフレデリック・テイラー* が唱えた科学的管理法にマッチする「テーラリスト・オフィス」です。産業革命期に多く見られたもので、いってみれば効率追求型ですね。工場や機械設備の生産性を高めるには適していますが、あまりユーザー指向とはいえません。ただここには、管理する人もされる人も同じ空間と時間の中で働くことに対する倫理的枠組みがありました。それは重要であると思います。

戦後、第二の大きな変化の波が押し寄せます。効率ではなく、人々のコミュニティを重視する「ソーシャル・デモクラティック・オフィス」です。

当時、ヨーロッパ、特にドイツ、オランダ、スカンジナビアなどの北部では人手不足が続いていました。職場の管理者は工場や鉱山との人材獲得競争に打ち勝つため、より高い賃金ではなく、より良質の労働環境を提供しようと考えました。そこで社会的なネットワークや人と人の相互関係を考慮した居心地のいい楽しい環境――すなわち校舎のデスクのような画一的配置でなく、人が働きやすいレイアウトが求められるようになったのです。オフィスのユーザー指向への転換がここで行われました。

ソーシャル・デモクラティック・オフィスが生み出したのは、キャンパスのような環境です。池や噴水、大通り、中央アトリウム、植栽といった、多彩な要素で構成することができます。グラクソ・スミスクラインのロンドン本社** はその1つで、中央通りがあり、広場があり、店舗がある。街としてのオフィスであり、社会的なコミュニティといえます。ストックホルム郊外のSAS(スカンジナビア航空)本社もそう。1988年にニールス・トルプが設計したもので、ソーシャル・デモクラティック・オフィスの青写真となりました。さらにさかのぼれば、1974年にオランダで建てられた、ヘルマン・ヘルツベルハーの手による保険会社セントラルビヘーアのビルもあります。

また、仕切りを設けずにオープンな空間を提供するオフィス・ランドスケープも、ソーシャル・デモクラティック・オフィスの非常に良い例です。

日本では今でもソーシャル・デモクラティック・オフィスよりテーラリスト・オフィスが多く見受けられるように思います。信頼関係の構築より監督のしやすさに重きを置く日本らしい、マネジメント上の倫理的配慮がうかがえます。

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