最新記事

軍事

日本製武器の世界での競争力は

武器輸出を解禁した安倍政権だが、国際市場での日本の武器に対する需要は低く転売されてテロ組織に渡るリスクも伴う

2015年11月9日(月)16時58分
ミナ・ポールマン

初の防衛見本市 今年5月に横浜で開催された展示会で出展された海上自衛隊の最大の艦艇「いずも」の模型 Toru Hanai-REUTERS

 昨年4月、安倍晋三首相は日本の武器輸出を解禁し、「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。これで日本は、厳格な審査を経た上で、該当する武器の売却が国際平和と日本の安全に寄与すると判断された場合に輸出が可能になった。日本の防衛政策における大きな転換だ。

 そして1年半後の今年10月、新政策に基づき武器の輸出や他国との共同開発を行う防衛省の外局「防衛装備庁」が発足した。

 日本政府は世界の武器市場と防衛戦略の両方をにらみながら輸出を解禁したとはいえ、この新政策がどのように施行されていくのかについては不安も残る。世界では日本の武器に対する需要が少ないことも、大きな障害となるだろう。

 安倍はなぜ武器輸出を解禁したのか。笹川平和財団(米国)の特別研究員ジェフリー・ホーナングによれば、その目的は製造コストの低減、アメリカとの協力強化、同盟諸国との安全保障での積極的な役割、の3点に絞られるという。

 日本製武器の法外なコストの低減は特に重要だ。販売数が増えれば増えるほど1つ当たりのコストが下がるのは当然だろう。

 しかし、武器輸出解禁によって大幅なコスト削減がすぐにできるかどうかは怪しい。国際市場での日本の武器の競争力に疑問が残るなか、現実的に考えれば、そのようなコスト削減には数年から数十年を要するだろう。

 コンサルティング企業アバセント・インターナショナルのスティーブン・ガンヤード社長は、日本製武器に対する需要の低さを指摘する。人気がないのは、認知度が低く、世界的に競争力のある製品がほとんどなく、値段が高いためだという。

 今まで日本の兵器メーカーにとっての顧客は日本政府だけだった。そのため生産の効率性を追求する必要がなかったと、ガンヤードは言う。

 おそらく一番の皮肉は、最も日本の武器を買ってくれそうなマレーシア、ベトナム、インドネシアといった国々には値段が高過ぎて手が出せないかもしれないことだ。一方、シンガポールのようにカネのある国はアメリカから買い続けるだろう。日本の武器は最新鋭でもなく、戦場で使われたこともないためだ。従って経済的な観点から見た場合、武器輸出解禁による短期的メリットは疑わしい。

日米同盟の不均衡を正す

 とはいえ、日本の防衛産業に市場原理を導入し始めることは、戦略的に重要であり利点もある。武器の輸出と他国との共同開発は、日本国内の防衛産業を強化し、安全保障をアメリカに依存している現状からの脱却につながるだろう。また将来に向けた研究開発の資金源も得られる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、農務長官にロフラー氏起用の見通し 陣営

ワールド

ロシア新型中距離弾、実戦下での試験継続 即時使用可

ワールド

司法長官指名辞退の米ゲーツ元議員、来年の議会復帰な

ワールド

ウクライナ、防空体制整備へ ロシア新型中距離弾で新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中