特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者
「Love Promise」キャンペーンで販売好調なメーカーだが、生産現場は“灰色"労働力に依存
7月28日、富士重工業「スバル」快走の陰で外国人労働者が軽視されていることが分かった。群馬県太田市の富士重工業工場前で4月24日撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)
[群馬県太田市 28日 ロイター] - 今年5月8日、富士重工業<7270.T>が東京で開いた決算説明会。吉永泰之社長はすこぶる上機嫌だった。米国で「スバル」ブランド車の販売が急増しているからだ。
現地のディーラーたちに会ったら、「スバル車が足りない」と頭をたたかれるかもしれない。だから、次の米国出張にはヘルメットが必要だろう―。吉永氏からはそんな冗談も飛び出した。
スバルの米国売上高はこの4年間で2倍に増えた。成功の原動力となったのは4輪駆動のスポーツ用多目的車(SUV)「フォレスター」だ。米国のドライバーたちを引きつけるのは、同車が持つ走りの性能や手頃な価格、それに社会的責任を果たしている車というオーラ(雰囲気)だ。
「Love Promise」。同社は米国で、そう銘打った企業イメージ戦略を大々的に展開、いまカリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンの各州では、「世界に前向きな影響を与える」自動車メーカーとして、スバルを愛用する顧客層が形成されている。
難民申請者たちが就労
しかし、スバル車ブームの陰には、同社が喧伝していない別の事実がある。売れ行きが急増している同社の生産が、ひとつにはアジアやアフリカからの難民申請者や安い外国人労働者の存在によって支えられているという点だ。
東京から電車で2時間の距離にある群馬県太田市。同社や部品サプライヤーなどスバル車の主要生産拠点で働く彼らの多くは短期契約の作業員で、賃金の35%程度は彼らを派遣した業者が受け取る。バングラデシュ、ネパール、マリ、中国など様々な国からやってきた彼らは、フォレスターの革製シートなどの部品の多くを作っており、大半の場合、厳しい労働環境に置かれている。
ロイターは太田市でスバル製造に関わっている22カ国、およそ120人の外国人労働者と面談し、彼らの給与明細書や難民認定申請書なども調査した。そこから浮かび上がってきたのは、外国人労働者が日本の閉鎖的な出入国管理法に縛られ、スバル車のサプライチェーンのなかで人材派遣業者や企業による待遇に苦悩している姿だった。
そうした労働者の1人、ネパール出身の難民申請者であるラカン・リジャル氏(34)は、同社向け車座席を製造する会社で作業中に腰を負傷し、その後に解雇を言い渡されたと話した。他の労働者たちからは、通常シフトの2倍の時間を働くよう圧力を受けた、事前通告無しに即時解雇された、保険をかけてもらえなかった、などの訴えがあった。
ロイターがインタビューした大半の労働者は、群馬県の一般機械器具製造業の最低賃金である時給817円、あるいはそれ以上の賃金を受け取っていた。しかし、2カ所のスバル系列サプライヤーで働いていた十数人のインドネシア人労働者の場合、家賃や光熱費、本国の送り出し機関に支払う手数料を差し引くと、残る手取り額は毎月平均でおよそ9万円、時給にして約409円にとどまっていた。