最新記事

経営

ドラッカーが遺した最も価値ある教え(後編)

「経営学の父」の膨大な著作の中から厳選された最高の教訓とは

2015年7月23日(木)17時15分

Rawpixel/Shutterstock

 ピーター・ドラッカーの最初の教え子であり、ドラッカー理論の伝承者ともいえるウィリアム・A・コーエンは、ドラッカーの遺した膨大な著作から最も重要な40のテーマを抽出・整理し、その教えを現実のビジネスに適用するための具体的な方策を示した。

 それが『プラクティカル・ドラッカー 英知を行動にかえる40項』(池村千秋訳、CCCメディアハウス)だ。経営上の問題が生じたときには、「経営学の父」であるドラッカーならどうするかを考え、それを行動に移すべしとコーエンは言う。そのヒントを誰でも得られるようにと、本書はまとめられた。

 ここでは、本書の「英知を行動にかえる40項」の中から「ドラッカーが遺した最も価値ある教え」を抜粋し、前後半に分けて掲載する。


『プラクティカル・ドラッカー
 ――英知を行動にかえる40項』

 ウィリアム・A・コーエン 著
 池村千秋 訳
 CCCメディアハウス

※ドラッカーが遺した最も価値ある教え:前編はこちら

◇ ◇ ◇

人材の配置と昇進をおろそかにしない

 ドラッカーは、人材の配置と昇進に関しても多くの有益な指摘をしていた。たとえば、それまで成果をあげていた人物を新しい役職に就けたところ失敗した場合、責任はその人物ではなく、人事を決めたマネジャーにあると述べていた。また、多くの組織に蔓延している「総合的人材」重視の発想も嫌っていた。どの側面でも傑出してはいないが、あらゆる側面で最低限の要求水準を満たしているバランスの取れた人材を探すべしという考え方は、誤りだというのだ。無難な人材ばかりになり、特定の役割に抜きんでた人材がひとりもいなくなってしまうからだ。この主張を裏づけるために、ドラッカーはアメリカ軍のふたりの将軍の例を挙げている(軍隊が伝統的に「総合的人材」を出世させてきたことを考えると、皮肉な話だ)。ひとりは、本書でもたびたび紹介してきたジョージ・パットン。もうひとりは、ドワイト・アイゼンハワーである。

 ジョージ・パットンは、部下の兵士たちにやる気をもたせ、飛び抜けた頑張りをさせる能力に秀でていた。そして、死傷者を最低限に抑えつつ、戦場であらゆる使命を成し遂げることができた。しかしその半面、仲間と円滑な関係を築くことは苦手だった。わざわざ敵をつくるような言動をしばしばしたのである。対照的に、ドワイト・アイゼンハワーは戦場での実戦経験がなく、もしパットンの役職に就いていたら惨憺たる結果に終わっただろう。しかし、さまざまな経歴と文化をもつ高官たちを互いに協力させ、対立を最小限に抑えるコツを心得ていた。第二次世界大戦でヨーロッパにおける連合国軍最高司令官を務めるうえで、アイゼンハワーは最高の人材だった。一方、戦場で陸軍部隊を率いる司令官としては、パットンの右に出る者はいなかっただろう。

 ドラッカーが思うに、重要なのは、よく考え抜いて決めること、そして長所を基準に人材登用をおこなうことだ。短所に関しては、それが問題にならないような役職に就ければいい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送 -EUが米ファイザーRSVワクチン承認拡大、

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中