最新記事

IT産業

NSAの通信傍受を恐れて進む米ネット企業離れ

プライバシー保護よりテロ対策が優先されるアメリカのネット企業とは怖くて契約できない!

2015年6月11日(木)17時05分
クラーク・マインドック

経済も スノーデンの内部告発の影響は広範に及ぶ Charles Platiau-REUTERS

 元CIA職員エドワード・スノーデンが暴露した米国家安全保障局(NSA)の情報収集活動のために米ハイテク産業が蒙った経済損失は予想を上回る可能性がある----米シンクタンク「情報技術イノベーション財団」が、今週の報告書で明らかにした。NSAが国民の通話履歴などを大量に収集していたことが発覚したことで、データを保管するクラウドコンピューティング業界が信用を失っただけでなく、アメリカのテクノロジー部門全体が影響を受けている。

 リーク当初の予想では、クラウドコンピューティングの売り上げがわずかに減るだけでも2016年までに215億〜350億ドルの損失が出るとされていた。だが今回の報告書は「その程度の損失では到底済まない」と警告している。「NSAの監視プログラムのためにアメリカのテクノロジー部門の競争力は低下し、世界市場のシェアの一部を失った」と、報告書は述べている。

 スノーデンは13年6月、アメリカ政府による広範な監視活動をメディアにリーク。NSAが逮捕状なしで市民の通話記録を大量に収集していたことも明らかになった。アメリカの電話会社やインターネット関連会社がNSAの求めに応じてデータを提供していたことも発覚。アメリカ政府の監視活動の透明性が疑問視され、世界中から激しい怒りの声が上がった。

愛国法に代わる自由法の成立で収集再開

 報告書は、NSAの監視活動に対する法的規制とチェック体制の全面的な見直しを提言している。今のままでは、世界中の企業や個人ユーザーがアメリカ政府による通信傍受を警戒し、アメリカのインターネット関連会社との契約をためらっており、このままでは顧客離れは止まらず、アメリカはグローバル市場での競争上の優位を失うおそれがあるという。

 NSAの通話履歴収集の法的根拠になった愛国法215条は、オバマ政権の期限延長の呼び掛けもむなしく、5月31日に失効した。だが、規定が失効しただけでは、市民のプライバシーが守られるという保証はない。だがその後、「米国自由法」が成立し、NSAは一定の制限付きながら再び情報収集活動を始めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中