最新記事

環境

北極海で掘削認可の終末シナリオ

地球上で最も過酷な環境で原油流出事故が起これば、回収はほぼ不可能

2015年5月12日(火)17時51分
ゾーイ・シュランガー

猛抗議 シェルの砕氷船を乗っ取り掘削に反対する環境保護団体(ヘルシンキ) Markku Ulander-Lehtikuva-REUTERS

 米政府は今週、石油会社のシェル・ガルフ・オブ・メキシコに対し、この夏から北極海沖合でのボーリング調査を始めることを条件付きながら認可した。

 シェルは3年前既に、北極海での初の掘削認可を得ている。だが2012年に行ったボーリング調査では、石油掘削リグ2基が、漂流して座礁するなどの事故を起こし、認可は一時的に取り消された。環境汚染は起こさないと請け合ったシェルの技術水準に疑念が生じたからだ。座礁したリグは、安全な場所まで曳航されねばならなかった。

 米内務省は当時の調査報告書で、シェルは作業に困難を伴う北極圏で必要な一連の安全措置を怠っていた、と痛烈に批判した。 だが今回は、シェルの新たな探査計画と政府による災害リスク評価は一定の水準に達しているという。

 海洋エネルギー管理局(BOEM)のアビゲイル・ロス・ホッパー局長は声明で「我々はチュクチ海での探査に関し、慎重かつ徹底的な調査を行った。同海域の環境的、社会的、生態学的な価値と、貴重な生態系やアラスカ先住民の伝統文化を保護するためだ」と語った。「今後も、沖合で探査活動が行われる際には、厳格な安全基準を適用する」

 BOEMは今年2月、北極海での掘削基準に関する案を公開した。だが環境保護派に言わせれば、この基準では到底不十分。 北極圏の過酷な環境下での掘削作業にはとてつもないリスクが伴い、原油流出事故が起きれば壊滅的打撃を受けると、以前から抗議してきた。

「地球に残された最後のきれいな海を収奪し、大量の二酸化炭素を排出する認可は受け入れられない」と、米環境保護団体「天然資源保護協議会(NRDC)」のフランツ・マツナーは語った。 「今回の間違った決定によって、北極圏は壊滅的な流出事故のリスクにさらされる。北極圏は氷だらけで、沿岸警備隊の基地や重要な浄化設備から1000マイル(約1610キロ)以上離れている」

 もしここで大規模な原油流出が起これば、現状復帰はほぼ不可能かもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、コロンビアへの関税・制裁停止 不法移民送還

ワールド

コンゴの反政府勢力、主要都市掌握と表明 国連が攻撃

ビジネス

日鉄との合併撤回要求へ、USスチールにアクティビス

ワールド

韓国当局、チェジュ航空機事故の予備報告書をICAO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 2
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」で記録された「生々しい攻防」の様子をウクライナ特殊作戦軍が公開
  • 3
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 4
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 5
    「1日101人とただで行為」動画で大騒動の女性、アメ…
  • 6
    ネコも食べない食害魚は「おいしく」人間が食べる...…
  • 7
    「ハイヒールを履いた独裁者」メーガン妃による新た…
  • 8
    オーストラリアの砂浜に「謎の球体」が大量に流れ着…
  • 9
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 10
    カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 5
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 6
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 9
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中