最新記事

原油価格

チキンレースに賭けたOPECの大誤算

原油価格の急落に耐えてシェアを守り、シェールオイルをつぶす戦略だが勝算は低い

2014年12月17日(水)15時54分
ポール・スティーブンズ(英王立国際問題研究所フェロー)

計算ミス OPECの決定を受けてガソリン価格も下がっている Brian Snyder-Reuters

 OPEC(石油輸出国機構)は先月末、公式の生産枠を現行の日量3000万バレルに据え置くことで合意した。供給過剰ともみえる状況下で減産が見送られたとあって、原油価格は大幅に下落した。

 減産見送りの「表向き」の理由は2つある。第1に、今は経済成長の失速で一時的に需要が冷え込んでいるだけで、来年には回復が見込めること。第2にシェールオイルが生産を増やすなか、原油価格が低くとも市場シェアを守るべきだというもの。シェールオイルは技術開発に多額のカネが掛かっているから生産コストが高く、原油価格が下がれば利益が出なくなり生産停止に追い込まれるはずだからだ。

 今回の決定でOPECの市場支配が幕を閉じた、とみる向きも多い。確かに、OPECは市場と価格を制御する手綱(かなり頼りない手綱になっていたが)を手放して、市場のメカニズムにすべてを委ねた格好だ。

 歴史に教訓を見るなら、これは非常に危険な賭けだ。OPECの決定の土台には、2つの深刻な誤認識がある。

 70年代のオイルショック後、市場は今と似たような状況になった。需要が冷え込む一方で、非OPEC産油国の生産が増えていた。このときOPEC(事実上はサウジアラビア)は値崩れを防ぐため減産に踏み切った。需要減は景気後退による一時的な現象とみられていたが、期待に反して需要は回復しなかった。

 その後、86年には恐れていた値崩れが起きた。だが、これで北海油田など高コストの油田が生産停止に追い込まれ、価格はすぐに上がるとOPECは高をくくっていた。だがそうはならなかった。このときと同じ誤りが、今また繰り返されようとしている。

先におじけづくのはどっち

 OPECの誤りは、需要に対する「所得効果」と「価格効果」の違いを理解していないことだ。さらに、「損益分岐点」(新規の生産設備に投資すべきか否かの判断材料になる)と「操業停止点」(既存の設備で生産した商品の価格が変動費を上回るかどうかで、操業を続けるか否かの判断材料になる)の違いも分かっていない。

 80年代の需要減は部分的には景気後退によるものだった(所得効果)。一方で、価格が高騰したことによる「需要破壊」もあった(これは価格効果)。景気後退による需要減は景気が上向けば回復するが、一度破壊された需要は回復しない。

 今の需要減も、部分的には価格の極端な高騰によるものだ(02年の1バレル32.40ドルから13年には108.66ドルまで上がった)。需要がすぐに回復するというOPECの読みは、80年代と同様、甘過ぎるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国の尹政権、補正予算を来年初めに検討 消費・成長

ビジネス

トランプ氏の関税・減税政策、評価は詳細判明後=IM

ビジネス

中国アリババ、国内外EC事業を単一部門に統合 競争

ビジネス

嶋田元経産次官、ラピダスの特別参与就任は事実=武藤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中