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BMWの電気自動車はテスラの敵じゃない

BMWのi3は電気自動車に付きまとう悪評を払拭できなかった

2013年7月30日(火)18時22分
ウィル・オリマス

前評判倒れ 「裕福だがテスラは買えない人向けのEV市場」を狙ったと思われたi3だが Mike Segar-Reuters

 BMWの新型電気自動車「i3」をわくわくして見に行った。試乗して気に入れば、テスラモーターズの「モデルS」を礼賛するのは止めて、たまには違う車を褒めてみようか。だが一目でがっかり。シボレーボルトのように航続距離が短く、ポンティアックアズテックのように醜いし、それでもまだ言い足りないぐらいだ。

 すごい車をつくるという意気込みでi3は開発されたはずだ。テスラのモデルSのように初めから電気自動車として設計されていたし、BMWだから出来がいいに違いない。モデルSの対抗モデルとして期待されていたが、実際はそうでもなさそうだ。

 テスラはモデルSなどの電気自動車開発で一切の妥協を許さなかった。航続距離300マイル、魅力的な外観、7人乗り、快適な加速などによって、モデルSはガソリン車ができることはなんでも、よりよくできることを証明している。

 その逆がBMWだ。i3の航続距離は80から100マイルで、テスラ登場以前のボルトや日産リーフのように短い。その外観はよくて「物珍しい」だけ。たった4人乗り。7秒で時速60マイルに加速するのが電気自動車としては悪くない程度。

 問題は「電気自動車としては悪くない」というのが従来の電気自動車にいつも付きまとってきた批判であるということだ。その点、テスラは電気自動車であることを言い訳にするどころか攻守を変えて、BMWなどのライバルに加速の不安定さや騒音などといったガソリン車の欠点を認めさせた。

ガソリンタンク付属は自信のなさの表れ

 一方、BMWはおどおどしっぱなしだ。ガソリン車開発を止めないのも、いざというときに電気自動車など当てにならないと思っているからだろう。i3には34馬力の発電用エンジンをオプションとして用意した。このエンジンの2.4ガロンのガソリンタンクをつけておけば、電池切れを起こしそうになったときに航続距離を倍増する。役立ちそうだが、電気自動車としては少しさびしい。

 この発電エンジンさえなければi3はなかなかのものだ。軽量素材と考え抜かれたデザインのおかげで、このエンジンを除いた車両重量は2700ポンドだ。一方、モデルSは4650ポンドと重いので小回りがよくない。

 さらにi3がモデルSに勝るのは価格だ。i3は発電エンジンを除けば41350ドルからとなり、格安ではないものの、7万ドルのモデルSよりずっと消費者にとって手が届きやすい。もしi3がBMWのような走行感が味わえるなら、最近話題の「裕福だがテスラに手が届かない人向けの電気自動車」マーケットを征する可能性は十分。ボルトやリーフよりは売れそうだ。

 しかし、ないものねだりかもしれないが、BMWの技術力をもってすれば、テスラのモデルSが高級車クラスでやったことを手ごろな価格帯でもできたはずだ。つまりライバルを性能でも価格でも打ちのめす。ところが、i3は「電気自動車にしては悪くない」という低い目標を自らに課した。ただ、その目標さえクリアできているかは今後を見ないとわからない。見た目は悪くても、せめて快適に走れるといいのだが。

© 2013, Slate

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