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日本経済アベノミクスという金融ミステリー
成長率でG7のトップに躍り出た日本だが、金融緩和でも一向に物価が上がらないのはなぜ?
家計消費も上向き始めたが、デフレは相変わらず Toru Hanai-Reuters
世界中の日本経済ウオッチャーは先週、奇妙なニュースに遭遇した。日本の1〜3月期の実質GDP成長率が前期比で年率換算3.5%に達したというのだ。3.5%といえばG7(先進7カ国)中でトップだろう。
日本は少子高齢化と生産年齢人口の減少で潜在成長率も下がっているというのが世界の認識だけに、これは快挙だ。日本の安倍晋三首相とアベノミクスの勝利と言えそうだ。
その一方で、国内で生産されたすべての財・サービスを対象とした物価指数であるGDPデフレーターは前期のマイナス0.2%からマイナス0.5%に下落した。
インフレ率の低下を伴った実質GDPの急成長とくれば、よほど効果的な構造改革が行われて生産性が向上したに違いない、と思うだろう。だが実際には安倍は景気刺激を優先し、大胆な改革にはまだ手を付けていない。
またアベノミクスの最初の目的はデフレからの脱却なので、物価が下がり続けているのでは効果を挙げているとは言い難い。
ミステリーはそれだけではない。成長の中身を見ると、伸び率が一番大きいのが輸出(前期比の年率換算16.1%)で、次が住宅(7.9%)、その次が家計消費(3.7%)。だが企業の設備投資は依然弱い(マイナス2.6%)。とても民間の投資を活性化させるような政策の結果とは思えない。むしろ、いかにも「異次元の量的金融緩和」がもたらしそうな円安効果であり資産効果だ。
成功すれば革命的だが
それでも全体としては、やはり勝利といえるのだろう。結局のところ、その目的は実質経済成長率を引き上げることであって、インフレを起こすことではない。成長に成功したのなら、政策も成功しているはずだ。
ただ、話がうま過ぎることには戸惑う。実際、過去6カ月間に日本から発信された朗報は、アベノミクスという実験的な政策とは何の関係もない巨大な偶然だった可能性もある。
一方で、市場のインフレ期待を喚起する中央銀行の能力に懐疑的な人々が、量的緩和策のいかなる効果も頑として認めようとしないことにも驚かされる。もし日本銀行がお金を印刷して好きなだけ資産を買いあさってもインフレが起こらないのなら、それは悲観の種ではなく金融財政政策の革命だ。
日本政府はもう消費税を上げる心配など要らない。大々的な金融緩和をしてもインフレが起きないのなら、どんどんお金を刷って財政赤字の穴埋めをすればいい。それどころか大減税を行って、実体経済のテコ入れもできる。今の日本のように物価が上がらないのであれば、やらない理由はない。
私は心底、それが本当ならいいと思っている。日本の経済政策をめぐる議論はリフレ派と財政再建派に二極化していた。増税しなくても日銀が財政赤字を埋めることができるなら、これほど簡単なことはない。
© 2013, Slate
[2013年5月28日号掲載]