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日本経済アベノミクスが得た意外な「援護射撃」
政府債務の臨界点を提唱した権威ある論文の「間違い」が指摘され、緊縮政策の是非も逆転しそう
市場も歓迎 GDPの90%という制限が外れてアベノミクスはさらに勢いづくかも Toru Hanai-Reuters
巨額の借金を抱えている国の政府は、アメリカの大学院生の「発見」に安堵しているかもしれない。
これまでは、ハーバード大学の教授が10年に発表した著名な論文に基づき、政府の債務から金融資産を引いた純債務がGDPの90%を超えたら緊縮財政を発動すべき、というのが政策担当者の常識になってきた。
しかし先週、マサチューセッツ大学アマースト校の大学院生トーマス・ハーンドンがこの論文の間違いを指摘。90%を超えても経済にそれほど深刻な影響はないと反論した。
日本政府の純債務はGDPの134%で、財政破綻したギリシャの155%に近く、中国も100%近いという見方もある。こうした国々にとっては、ハーンドンの主張は朗報だ。
間違いを指摘された研究論文は、ハーバード大学のカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフ両教授による「政府債務と経済成長」。純債務がGDPの90%を超えると経済成長に深刻な影響を及ぼすと結論付けた。
ハーンドンは2人の論文を検証した結果、研究対象だった20カ国のうち5カ国が主要な計算から漏れていたことを発見。表計算ソフトの操作ミスも明らかになった。ハーンドンも政府債務と経済成長に関連性があること自体は認めているが、ラインハート論文が結論付けたほどの悪影響はないとしている。
安倍の財政出動は正しい
ラインハートの論文は多くの有力者から支持されてきた。ポール・ライアン米下院議員(昨年の大統領選の共和党副大統領候補)やオッリ・レーン欧州委員会副委員長(経済・通貨問題担当)も、この論文を根拠に緊縮策の必要性を主張した。
こうした論調はアメリカやユーロ圏に限ったことではない。日本の安倍晋三首相による「アベノミクス」に対しても、財政赤字をさらに膨らませるものだとの批判があった。ここまで一定の成果が出ているように見えるにもかかわらず、だ。
他方、プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は緊縮財政に批判的だ。クルーグマンは日本経済について、インフレや資産価値の高騰によるバブルが問題ではなく、むしろ金融財政政策に対して過度に慎重だったことが問題だと指摘する。
「日本経済は(金利が極限まで低下する)典型的な『流動性の罠』にはまったままだが、こういうときに頼りにすべき財政政策は小出しにしかしてこなかった」と、クルーグマンは先日、ニューヨーク・タイムズ紙に書いている。「その点、機動的な財政出動と真のインフレを目指す政策との組み合わせであるアベノミクスは正しい政策で、遅過ぎたぐらいだ」
富士通総研のマルティン・シュルツ上席主任研究員は今回の「間違い」の発見について、「別に驚きはない」と言う。彼によれば、公的債務は一定の水準を超えると経済成長に影響を及ぼし始めるのはほぼ確かで、ラインハートらが主張するGDPの90%という数値は絶対的な基準ではなく、その国の経済状況によって変わるものだ。
「例えば新興国では、生産活動に寄与するインフラなどを整備するためなら、多少債務が増えるのも悪くない。だが高齢化が進む低成長経済においては、債務の水準が低くても問題だ。なぜなら政府の借金はたいてい年金などに使われてしまい、若い世代の将来に影響するかもしれないからだ」
政府の借金はどこまで許されるのか。簡単に答えは出ない。それでもユーロ危機が示したように、重債務国の国民が困窮を強いられることだけは確かだ。
From the-diplomat.com