最新記事

テクノロジー

ついにサムスンを切ったアップルの勝算は?

サムスンからの半導体調達を打ち切りへ──決定の背後にのぞくあの男の影

2013年1月18日(金)13時26分
アレックス・クライン(ビジネス担当)

拾い物 サムスンにとってアップルとの「離婚」は長期的に見れば好材料? David Gray-Reuters

 アップルとサムスンの愛は、もはや過去のものとなった。世界各国の裁判所でお互いを相手取って起こした特許権侵害訴訟は、50件以上。隙間風が吹き始めて久しいカップルがついに破局を迎える。

 報道によれば、アップルはサムスンからの半導体調達を打ち切るようだ。携帯端末業界専門調査会社アシムコの予測によれば、アップルは13年、サムスンへの半導体発注を本格的に減らし始める。そして14年には、両社の「離婚」が完了するという。

 影響は大きい。何しろ、アップルの携帯端末向けOS(基本ソフト)である「iOS」を搭載したiPhoneやiPadなどの製品はすべて、サムスン製半導体で動いているのだ。

 14年以降、サムスン製半導体はすべてサムスンの自社製品に用いられ、アップルは他社から半導体を調達することになる。同社は既に、サムスンからの半導体の購入量を減らし始めており、台湾のメーカー──世界有数の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)社と欣興電子(ユニマイクロン)社に接触している。

 この離婚劇は、アップルとサムスン、さらには業界全体を大きく揺さぶるものになるだろう。

 サムスンは、短期的に見れば非常に大きなビジネスを失う。しかし、台湾の電子部品業界専門紙「電子時報」が指摘するように、これは必ずしも悪い話ではない。

 現在サムスンは、アップル向けに多くのプロセッサを生産している結果、自社のスマートフォンとタブレット型端末のプロセッサ需要の30%程度しか社内で賄えていない。アップルとの取引がなくなれば、自社製品向けのプロセッサ生産余力が大幅に高まるという利点がある。サムスンのプロセッサ需要は、同社が製造するアンドロイドOS搭載スマートフォンの人気を追い風にさらに増えるだろうと、電子時報は予測している。

アップルを待つ不安材料

 アップルには、どのような影響が及ぶのか。同社は半導体の新たな調達先を見つける必要があるが、現在のサムスンほど大量の半導体を供給できるメーカーはほとんどない。米半導体大手のインテルでも無理だ(同社は既に、アップルのノートパソコン「マックブック」向けの半導体を作っている)。

 結局は、複数のメーカーから半導体を買うことになるだろう。それに伴い、半導体の設計、品質、価格が一様でなくなれば、新たなコストが発生するし、「iワールド」の均質性が損なわれかねない。iPod、iPhone、iPadの品質にばらつきがないことは、これまで同社の自慢だった。

 アップルはどうして、こうした悪材料を背負ってまで、サムスン製半導体の購入を打ち切るのか。それは、アップルがライバル企業に抱く嫌悪感、そして徹底したコントロールへの欲求と深く結び付いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、死者1700人・不明300人 イン

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中