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債務上限問題は「1兆ドル硬貨」で解決?

米議会の債務上限引き上げ交渉、究極の危機回避策は1兆ドル硬貨の鋳造か

2013年1月24日(木)15時34分
マシュー・イグレシアス

抜け穴 紙幣はやたらと刷れないが、硬貨は好きなだけ作れる Steve Cole-Photodisc/Getty Images

 アメリカでは債務上限をめぐる民主・共和両党の攻防が山場を迎えている。このままでは2月中旬か3月上旬にも債務上限に達して政府借り入れができなくなり、デフォルト(債務不履行)に陥る恐れがある。

 保守派は11年夏と同様、債務上限引き上げと引き換えにオバマ大統領に歳出削減を迫る構えだ。その下準備として共和党のジョン・コーニン上院議員らは、政府の借り入れ能力が尽きかけている現状を一種のシャットダウン(政府機関のサービス停止)と称している。だが実際は違う。議会が承認した予算に対して当の議会がデフォルトに陥るよう仕向けているのが実態だ。

 危機を回避する方法はいろいろ考えられる。奇抜だが法律的には問題ないのが、「硬貨作戦」。財務省が額面1兆ドルのプラチナ硬貨を鋳造・発行して資金調達に利用するというものだ。

 記念硬貨の発行に関する連邦法(合衆国法典第31編第5112条)によれば、「財務長官はその折々に下した適切な指示に従った具体的な仕様、デザイン、種類、量、額面、刻印で、プラチナを用いた地金型コインおよびプルーフ貨幣を鋳造・発行することができる」とある。

 これを抜け穴に利用し、財務長官の指示で、例えば1兆ドルのプラチナ硬貨を発行する。それをFRB(米連邦準備理事会)に預けて、その「預金」口座から1兆ドル分の小切手を振り出して決済し、資金調達をするというわけだ。シンプルで効果的な解決策だ。

 条文の本来の意図とは違うのではないかという声もある。確かに本来は記念通貨発行を意図したものだが、この条文が財務長官に全面的な裁量を与えているのは紛れもない事実だ。

 越権行為じゃないかという意見もあるが、法律を変えるわけではない。財務省が法的に払うべきものを払えるようにするだけだ。インフレを誘発するという根拠もない。FRBはさまざまな量的緩和プログラムの結果、債券などの金融資産を大量に保有している。それらの債券を売って通貨供給量を減らせば通貨発行の影響は相殺できる。

瀬戸際戦術に終止符を

 悪しき前例を作るという声もあるが、それは逆。11年夏の債務上限引き上げをめぐるオバマ政権と議会の長く不毛な交渉こそ悪しき前例だ。あれがデフォルト危機を招いて消費意欲は冷え込み、「財政の崖」問題が残り、今こうしてデフォルト危機が再燃している。

 議会運営において瀬戸際戦術が繰り返される状態が定着すれば、危険で無責任だ。1兆ドルの硬貨を発行するという方法はばかげているように思えるが、通貨を発行する主権国家が支払い義務を履行できなくなるほうがよほどばかげている。議会が真っ二つに割れている今、アメリカに必要なのはきちんと機能する政治システム。債務上限を設けることが仕事でないのは明らかだ。

 だからこそ1兆ドル硬貨が必要なのかもしれない。共和党のグレッグ・ウォールデン下院議員は硬貨発行を阻止すべく、法律の「抜け穴」を塞ぐ法案を提出する意向を表明している。実にもっともな主張でオバマ政権も喜んで同意するだろう。ただし、それには他の法律も変えるという条件が伴う。必要な財政支出を借金で賄うことを禁じる法律、つまり債務上限を撤回することが条件だ。

 債務上限をなくせば政府は歳入でも歳出でも議会の意向に従い、財政赤字を借り入れによって埋め合わせるようになる。国がデフォルトに陥ることもなくなる。具体的な措置として硬貨作戦はもってこいだ。

[2013年1月22日号掲載]

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