最新記事

経営

しわも不安もない優良企業

ボトックスで知られる医薬大手アラガンはトレンドへの嗅覚とR&Dで不況を生き抜く

2012年12月21日(金)15時51分
ダニエル・グロス

不況知らず 外見に投資したいという人々の意欲は衰えない Shannon Stapleton-Reuters

「ボトックスのおかげで私はしわ1つない」と、米医薬大手アラガン社のデービッド・ピョットCEOは言う。ボトックスはボツリヌス菌の毒素を応用した医薬品で、アラガンの看板商品。しわ取り薬として美容外科で広く使われている。確かに58歳のピョットの額はまるで熟年ハリウッドスターのようにぴんと張っている。「それに何の悩みもない」と彼は言う。

 それはそうだろう。アラガンの株価は1株90ドル台と、過去1年間の最高値に近い水準で推移している。現在の時価総額は約270億ドルだ。業績は順調で、今年の7〜9月期の利益は2億4900万ドルだった。最大手の医薬品メーカーでは1人の経営者が長期間にわたって君臨する例は少ないが、ピョットがアラガンの経営トップとなってもう15年になる。

 アラガンの本社はカリフォルニア州アーバインにある。ヤシの木が行儀よく植えられたオフィス地区と赤い瓦屋根の家々が並ぶ住宅街のある町だ。アラガンは、この低成長時代においても工夫次第で米国企業は業績を伸ばしていける、ということを示す見本であり象徴だ。

 確かにアラガンの看板商品はボトックスやヒアルロン酸製剤のジュビダーム、豊胸手術用のインプラントといった美容整形向けの製品で、ビジネスの規模も大きければ今後の成長も見込める分野。だが、処方薬も売り上げの半分を占めている。いくつかの成長分野に特化する一方で新たな需要を掘り起こし、技術革新や既存製品の新たな応用の開発にも努めてきた。おまけに新規採用も続けている。

 アラガンが注目しているのがいくつかの社会的トレンドだ。高齢化社会に生きる人々は加齢による容貌の衰えと断固闘おうとしていることや、新興市場の人々の急速な収入増。そして金を払って体のメンテナンスをすることへの抵抗感が世界的に減っていること──。

 景気後退のさなかの2009年でさえボトックスの世界売り上げは堅調で、翌10年には08年の水準を超えていた。アラガンの全売り上げの3分の1をボトックスが占めるが、今年も2桁増をうかがう勢いで増加しており、18億ドルに達するだろうと同社では予測している。

「ボトックスはどこででも使われており、一般消費者向けとしては最も知名度の高いブランドの1つと言えるだろう」とピョットは言う。顔の神経に作用してしわを取る薬の世界市場は規模にして23億ドル、年率16%で拡大しているが、ボトックスの占めるシェアは76%に達する。アラガンは世界の「胸部美容」市場でも42%のシェアを維持している。

欧州でも需要は減らず

「わが社の市場を見れば分かるが、外見をよくしたい、運転免許証の記載年齢より2〜3歳若く見られたいと思うのは本物の社会的トレンドだ」とピョットは言う。政府から医薬品の認可が下りるのを待って医師に売り込むというのが昔からの医薬品のビジネスモデルなのだが、ピョットはトレンドを見極めることを大事にしているようだ。

 不況は美容整形市場には追い風なのかもしれない。「景気が期待するほどよくない時期でさえ、個人的そして仕事上の理由から」人々は自分の外見に投資すると、ニューヨークの美容整形外科医、アダム・シャフナーは言う。金融危機のさなかもその後も、シャフナーを訪れる患者のボトックス(1回の施術で200ドル)やジュビダーム(注射1本500ドル)への需要は高いままだったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

街角景気1月は0.4ポイント低下、食品価格上昇など

ワールド

中国主席、ロシアの対独戦勝記念日式典への招待を受諾

ワールド

エクアドル大統領選、現職と左派元国会議員が決戦投票

ビジネス

英労働市場に一段の冷え込み 求人は20年以来の減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大反発を買う...「イメージアップを図るため」
  • 2
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉妹で一番かわいがられるのは?
  • 3
    睡眠中に体内は大掃除されている...「寝ているあいだにキレイになる」は本当だった
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 6
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    なぜ「ファスティング」は「筋トレ」と同じなのか? …
  • 9
    「嫌な奴」イーロン・マスクがイギリスを救ったかも
  • 10
    賃貸住宅の「床」に注意? 怖すぎる「痕跡」を発見し…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 5
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 6
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 7
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 8
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 9
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中