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エジプトひどい憲法か独裁かモルシが迫る二択
大統領の権限強化に反発が広がるなかイスラム主義者による新憲法制定が進む
ムバラク復活? 大統領権限を大幅に強化するモルシの憲法宣言にエジプト国民の反発は高まる一方(11月27日、カイロ) Mohamed Abd El Ghany-Reuters
エジプトの政権は、「ほぼあり得ない二者択一」を有権者に迫っている。イスラム原理主義者が急ごしらえで起草した新憲法を受け入れるか。それとも国民が打倒を目指し奮闘してきた独裁政治を再び容認するか──。
もちろん、どちらも大多数の国民には受け入れ難い選択だ。だからこそ、エジプト各地では抗議デモが繰り広げられている。
モルシ大統領は先月、大統領の権限を大幅に拡大することなどを盛り込んだ憲法宣言を発表。前ムバラク政権の関係者らに操られた司法界の勢力から「エジプトを守るため」には強大な権限が必要だと主張したが、国民は独裁政治の復活に向かうのではないかと懸念している。
ただしモルシは、新憲法が起草されればすぐにでもこの権限を手放す用意があるとも発言した。このため憲法起草委員会は、ただでさえ物議を醸していた憲法草案を早急に成立させようと動き始め、先週には草案の賛否を問う採決を行った。この委員会は、モルシの出身母体であるイスラム主義組織のムスリム同胞団が大多数を占めている。
「ひどい新憲法か、独裁政権かの二択をもたらしただけ」と、首都カイロのアハラーム政治戦略研究センターの上級研究員ジアド・アクルは言う。「民主主義への移行どころではない」
司法でさえ大統領の決定には干渉できない、とした憲法宣言をモルシが発表したのには訳がある。今月初めに予定されていた最高憲法裁判所での裁判で、憲法起草委員会の正統性が否定され、解散を命じられる可能性が取り沙汰されていたからだ。同裁判所は6月の大統領選の結果も無効にすることを狙っていたともいわれる。
裁判所との対立も激化
モルシと憲法起草委員会に対する司法界と民衆の反発は高まる一方だ。憲法宣言の発表以降、デモ参加者と治安部隊との衝突で少なくとも3人が死亡。先週、カイロのタハリール広場を埋めた群衆は、モルシはムバラクと同じ独裁者だと叫んだ。
「憲法草案で過激な原理主義者たちは、女性がやっと手に入れた権利を根絶しようとしている」と、憲法起草委員会を辞任した元議員のモナ・マクラム・エベイドは言う。彼女と同様に、草案に反発した改革派の委員らの辞任が相次いでいる。
「ムスリム同胞団が多数派の権利を振りかざしている。もはや共存の精神など見えない」と、アハラーム政治戦略研究センターのアクルは指摘する。デモが暴徒化すれば、ムスリム同胞団への国民の支持は急低下して、エジプトの政治体制が根底から揺らぐ可能性もある。
それでもムスリム同胞団側はあくまで、ムバラク政権の残党が支配する司法界と戦っているのだと主張する。
司法界と政権との対立はいっそう激化している。モルシの憲法宣言に反発した国内各地の裁判所は先週、ストライキを実施。最高憲法裁判所の副長官マヘル・サミは「政治圧力には屈しない」と宣言している。
ムバラク独裁政権崩壊後のエジプトは、最大の困難に直面しているようだ。
[2012年12月12日号掲載]