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M&Aスプリントを買った孫正義の資金とエゴ
一見すると日米の負け組連合だが、アメリカの利用者にとって期待のシナリオもある
スプリントのダン・ヘッセCEO(右)と記者会見に立った孫 Yuriko Nakao-Reuters
米携帯電話3位のスプリント・ネクステルは、つい最近まで死に体同然だった。看板機種はなく、次世代高速通信LTEの対応で後れを取り、顧客獲得は進まず設備投資の資金もない。1位のAT&Tや2位のベライゾンに大きく水をあけられ、4位のTモバイルはメトロPCSと合併交渉中だった。
そこに日本のソフトバンクが買収の名乗りを上げた。携帯電話のように地域的な制約のある事業では、海を越えた投資で相乗効果を得るのは至難の業。それはTモバイルを子会社化したドイツテレコムの経験からも分かる。それなのになぜ?
ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌のロビン・ファルザートが分かりやすく解説している。鍵は資金力と孫正義の自負心だ。以下に引用してみる。
「私は男だ。男なら誰でも一番になりたい」──日本で2番目の富豪で、ソフトバンク社長の孫正義がスプリント買収について語った言葉だ。
エゴを満足させたいなら今回の買収はうってつけ。ブルームバーグによれば、日本企業による外国企業買収では少なくとも過去12年で最大級だ。買収の理由については為替、資金注入の高揚感、大胆さで要約できる。
円高の現在、ドル建て資産はお買い得だ。5年ほど前は1ドル=123円だったが、今や79円ほどに下落。日本企業は海外資産を買いあさり、ウォール・ストリート・ジャーナルが引用した調査会社ディーロジックのデータによると、彼らは年初来、650億ドル以上を投じている。
一見すると日米の負け組同士の統合だ。買収計画が明らかになるとソフトバンク株は20%下落した。しかし統合後、同社は契約者数で日本最大手NTTドコモを抑えて1位に躍り出る。
こうしたインフラ市場は独占に陥りやすい。全国的なLTE網を最初に構築した企業は、巨額投資と引き換えに市場を独占し、独占価格を設定できる。LTE市場参入が2番手なら費用負担は同じく巨額だが、シェアは半分で価格設定も低くなる。3番手は費用負担は同じで、シェアも価格もさらに低下する。
アメリカの利用者にとって最良の筋書きはソフトバンクが日本国内で利益を出し、米3番手のLTE網構築という賭けに資金を投じること。展開が楽しみだ。失敗はほぼ確実だろうが。
© 2012, Slate
[2012年10月31日号掲載]