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世界経済日銀の追加緩和で円も人民元と同罪に
乗り遅れれば輸出市場を失うとばかり、日本も量的緩和(QE)合戦に突入したが
今は昔 日銀が世界で初めての量的緩和を行った10年前、各国は「邪道」と非難した Toru Hanai-Reuters
2008年の世界金融危機以降、金融の量的緩和(QE)という言葉は一般にまで広く知られるようになった。短期金利を操作する伝統的な金融政策が景気刺激の役に立たなくなったとき、世界の中央銀行がこぞって頼りにしたのが長期金利を引き下げるQEだ。
QEは、FRB(米連邦準備理事会)や欧州中央銀行(ECB)、日本銀行やイングランド銀行にとって欠かせない武器になった。景気刺激策としてのQEの有効性は意見が分かれるところだが、同様にその副作用も忘れてはならない。
量的緩和と言っても実際に紙幣を印刷するわけではないが、それと似た効果を発揮する場合がある。長期金利を引き下げ、貸し出しや借り入れを増やして通貨供給量を増やす。すると大概は資産価格が上昇し、資産効果で消費が刺激されるが、困ったことに物価全般も上がってインフレになってしまう。
通貨供給量がだぶつくと通貨も安くなることが多い。通貨安は輸出にとっては追い風だが、輸入には不利だ。インフレと裏腹に貨幣価値は下落するので、大きな借金をしている者ほど得をして、お金を貸している者が損をする。厄介なことに、QEで解き放たれた資金は商品市場にも流れ込み、世界中にインフレを輸出してしまう。
「量的緩和」は10年前、日銀の政策を批判する言葉として作られた。それが今は世界に広がり、先月は日銀自身が、予定を前倒しして10兆円の量的緩和を追加実施すると発表した。表面的には、最近QE3(量的緩和第3弾)に踏み切ったばかりのFRBなどの政策を補完し、世界経済を助ける試みに見える。
だが仔細に見れば、金融緩和の目的は円高阻止だったことが分かる。通貨を切り下げ自国の輸出を有利にしようとする現在進行形の「通貨戦争」、自国の輸出のためなら外国に失業を輸出することもいとわないという「近隣窮乏化政策」の中で、日銀が静かに放った反撃だ。
インフレで借金軽減効果
人民元を人為的に切り下げていると中国を非難するアメリカと中国との争いは、世界を覆う貿易戦争の一番目に付く戦いの1つにすぎない。ユーロやポンド、米ドル、ブラジルのレアル、スイス・フラン、そして円も、皆同罪と見なされている。
夏に大阪を訪ねた日銀の白川方明総裁は、日本の大手電子機器メーカーの経営者たちから円高が経営を圧迫していると圧力をかけられた。日本の景気回復も遅れており、前倒しQEの狙いは円安だろう。
ユーロ圏では、通貨価値は微妙な話題だ。ECBが財政危機の南欧諸国の国債を無制限に買い取ると請け合ったことなどから、市場には信頼が戻った。
だが、強気に転じた投資家はドルを売ってユーロを買い、ユーロ高を招いてしまった。南欧諸国が苦境から脱するには、ユーロ安で輸出をするのが唯一の道にもかかわらず。これ以上ユーロ高が進めば、ドイツなど中核の経済も不振に陥るだろう。
いずれも高水準の政府債務に苦しむ欧米などの中央銀行は、QEのインフレによる借金軽減効果のことも考えたに違いない。日本やアメリカに投資している外国人投資家は、通貨安とインフレで自分たちの保有する債券の価値が目減りしていると怒っている。大量の米国債を保有している中国が典型だ。
他の国々が撃ち合いを演じるなか、日銀も対抗せざるを得なかったのだろう。昨今はQEに意見を持たない人を見つけるほうが難しい。だが、われわれがその結末を知るのはまだまだ先のことになるだろう。
From the-diplomat.com
[2012年10月10日号掲載]