最新記事

中国経済

中国バブル崩壊で銀行が道連れに

価格下落や大量在庫がもたらす衝撃波に失速寸前の中国経済は耐えられるか

2012年8月31日(金)14時58分
マムタ・バドカー

宴の後 住宅価格が下がり始めると、着工はしたが完成されない在庫物件が急増、販売物件数も減少した(上海・浦東地区) Carlos Barria-Reuters

 住宅市場が一気に過熱した2010年以降、中国政府は不動産バブルの崩壊を回避してソフトランディング(軟着陸)させるための手を打ってきた。

 そのかいあってか住宅市場は調整局面に入り、住宅価格も徐々に下がっている。しかし本当の底打ちはまだ遠いと、仏銀大手ソシエテ・ジェネラル(香港)のアナリスト、姚偉(ヤオ・ウェイ)は言う。

 中国国家統計局によると、新築住宅の平均価格は高値のピークだった11年の4〜6月期より1.5%弱下落した。それでも中国の家計部門は豊かで余裕があるため投資用物件を売り急いだりはせず、住宅価格の下支え役を果たしている、と姚は言う。

 問題は不動産開発業者のほうだ。開発業者は住宅市場の将来に対する期待を下方修正している。住宅を造っても今までのように高くは売れない──そんな見通しが広がったために、着工はしたものの完成に至っていない「住宅在庫」が急速に増えている。高い伸びを続けてきた住宅投資も昨年の終わり頃から減少に転じた。

 悲観的になるのも無理はない。中国指数研究院によると、中国100都市の新築住宅の平均価格は5月まで8カ月連続で前月比マイナスを記録(6月は0.05%上昇した)。住宅販売件数も減少傾向にある。
開発業者の資金繰りも苦しくなっているようだ。今年1〜5月の土地取引を見ると、成約件数では前年同期比でマイナス18%、成約金額でマイナス10%と大きく減少。これは、土地購入のための借り入れが困難になっていることの表れだ。

 追い詰められた不動産開発業者が住宅在庫の投げ売りを始めれば、住宅価格は急落するだろう。最悪のシナリオは、バブルの頃に不動産開発業者に多額の資金をつぎ込んだ「融資平台(地方政府が出資する投融資企業)」や国有企業で焦げ付きが発生すること。さらに、これらの企業を通じて不動産投資を膨らませていたと疑われる銀行に累が及ぶことだ。

 銀行が間接的に巨額の不良債権を抱え込んでいるというシステム不信が広がれば、中国経済は大混乱に陥る。「住宅市場の調整は、今後も中国経済を揺るがし続けるだろう」と、姚が言うのもそのためだ。


頼りは中間層の購買意欲

 不動産バブル崩壊回避の頼みの綱は、豊かな新中間層だ。個人所得が堅調に伸びてきたおかげで、住宅も買いやすくなった。だが中国主要都市の住宅価格の高さは依然、世界でもトップクラス。北京の住民が市内で住宅を買おうと思えば、可処分所得の15年分以上のカネが掛かる。

 政府はこうした住宅市場のゆがみを是正し、健全な成長を促すため、居住用以外の投資用不動産への融資を規制して投機を牽制したり、「保障性住宅」と呼ばれる低価格の公共住宅の建設を促進してきた。これによって住宅価格が緩やかに下がり、中間層の購買意欲を喚起して大都市住民にも広く住宅が行き渡るようになれば、ソフトランディングは成功だ。

 中国人民銀行が6〜7月と2カ月連続で行った政策金利引き下げも、個人の住宅購買意欲を刺激するかもしれない。

 ただ、連続利下げは中国経済が失速の瀬戸際にある証拠でもある。中国は今週、4〜6月期のGDP統計を発表するが、6四半期連続で成長率が鈍化した可能性がある。エコノミストたちの間では7%台後半の予想が大半だ。雇用維持のために8%成長が必要とされる中国にあって、リーマン・ショック後の09年以来の8%割れとなる。

 景気後退になれば住宅購入どころではない。景気の失速を防ぐことが、中国の至上命題だ。

From GlobalPost.com特約

[2012年7月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中