最新記事

テクノロジー

パリス・ヒルトンに成り下がったヤフー

もはや何で生計を立てているのかも分からないが、人気だけは相変わらずで求婚者が群れを成す

2011年12月2日(金)15時01分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

人気だけ絶大 めでたくヤフーを買収するのはグーグルかマイクロソフトかアリババか Brendan McDermid-Reuters

 ヤフーはIT業界のパリス・ヒルトンに成り下がった。ぼんやりして間抜けなのに人気は絶大。それでいてこの会社が何で生計を立てているのか、もはや誰にも分からないありさまだ。

 そして理由はよく分からないが、パリス・ヒルトンと同じくヤフーにも多くの求婚者が秋波を送る。噂と注目の的でもある。ヤフーが面白い会社だったのは、もう遠い昔のことだというのに。

 一番最近の噂によると、グーグルがヤフーを買収するという。あるいは、ヤフー買収を狙う買収会社に出資する方法を取るかもしれない。ヤフーの株式時価総額は約210億ドルと巨額で、誰にとっても単独で買収するのは難しいからだ。

 だがグーグルとヤフーの合併を米独禁当局が認めるとは思えない。08年にも両社の提携案を無効にしている。グーグルはヤフーを買いたいというより、ヤフーの株価をつり上げようとしているだけかもしれない。同じく買収に関心を見せているライバルのマイクロソフトにやすやすとヤフーを渡さないために。

 ヤフーの7〜9月期の売り上げは前年同期比で5%減少するなど業績は惨憺たるものだが、いまだに多くのファンを抱えている。調査会社のコムスコアによれば、アメリカでの月間訪問者数は1億8000万人近く、グーグルに次いで2番目だ。

 噂では、中国の電子商取引最大手でヤフーが40%の株を持つアリババ・ドットコムも買い手候補。ネットスケープ・コミュニケーションズの創業者マーク・アンドリーセンも、シルバーレイク・パートナーズやロシアのDSTグローバルなどの投資会社と組んで買収を検討中だという。

経営失策のオンパレード

 これだけ買い手が群れを成していて何も起こらないはずはないと、ヘッジファンド、アイロンファイア・キャピタルの創業者エリック・ジャクソンは言う。「おそらく1月までには買収があるはずだ」

 鍵を握るのは、アリババのCEO馬雲(ジャック・マー)だ。馬は今年、ヤフーとひと悶着起こしている。馬はアリババ傘下のオンライン決済部門を本体から切り離して、自分個人の会社の傘下に置いた。ヤフーには何も知らせずに、だ。

 そのせいでヤフーが保有するアリババ株の価値は下がり、ヤフー株も下げた。最悪なのは、ヤフー経営陣がまったくこの動きに気付いていなかったらしいことだ。最終的に両社は和解したが、ヤフーの投資家が喜べる内容ではなかった。

 このいきさつがあるため、投資家は馬が交渉に参加しない限り買収話はしたがらない。アリババへの貸しを返してもらい、馬が二度とヤフーの価値に傷を付けられない買収方法にしなければならないからだ。

 もっともアリババの一件は、近年相次いだヤフーの失態の1つでしかない。07年にはテリー・セメルCEOを追い出して共同創業者のジェリー・ヤンがCEOになった。ひどい経営音痴のヤンは、マイクロソフトからの485億ドルの買収提案を蹴ってしまった。09年にヤンに代わったキャロル・バーツは、出資先のアリババに裏をかかれた。

 バーツは今年9月に解任され、ヤフーの先行きについて噂が飛び交っている。一番傑作なのは、ヤンが買収ファンドから資金を集め、ヤフーを買収して株式を非公開にし、自分がトップに返り咲くというものだ。

 このシナリオの問題は、ヤンが完全に無能なくせに自分は天才だと思い込んでいるという点。彼を再びヤフーのトップに就けるのは、経営的には自殺行為に等しい。

 だがエンターテインメントだと思えば、これほど面白い見せ物はない。次の展開がどうなるか楽しみだ。

[2011年11月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

戒厳令騒動で「コリアディスカウント」一段と、韓国投

ビジネス

JAM、25年春闘で過去最大のベア要求へ 月額1万

ワールド

ウクライナ終戦へ領土割譲やNATO加盟断念、トラン

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、小売関連が堅調 円安も支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中