最新記事

新興企業

グルーポン快進撃の陰の数字マジック

時価300億ドルのIPOに「異議あり」、上場計画書で露見した成長モデルの弱点

2011年9月15日(木)14時36分
アニー・ラウリー

いつか来た道 利益は見せかけ、赤字の構造はかつてのドッドコム企業とまったく同じ Scott Olson/Getty Images

 クーポン共同購入サイト「グルーポン」は08年11月の創業以来、天文学的な数字をたたき出してきた。同社は今秋のIPO(新規株式公開)を目指しており、時価総額は300億ドルとも言われる(追記:その後、市場環境の悪化を受けて計画を見直している)。

 6月2日にグルーポンが米証券取引委員会(SEC)に提出した上場計画にも、急成長を物語る数字が躍る。創業から3年足らずで従業員は7100人。会員数は8300万人を超え、3カ月で2800万枚以上のクーポンが売れる。

 10年の売上高は7億1300万ドル。営業利益は10年が6100万ドル、11年第1四半期は8200万ドル。ちなみに120年の歴史を持つ世界最大手の広告代理店オムニコム(従業員6万8000人)は、同四半期の利益が約2億ドルだった。

 ただし、誇らしげに並ぶ数字は一般的な会計基準に従ったものではない。同社の上場計画には「調整後連結事業営業利益(ACSOI)」という聞き慣れない用語が50回近く登場する。

 11年第1四半期の利益8200万ドルは、ACSOIとやらに基づく数字。これにはマーケティングや企業買収、新規会員獲得など数億ドルの経費、つまり事業拡大の核となる基本的な支出が考慮されていない。

 もちろん、投資家も黙ってはいない。グルーポンの上場計画は「マジック」と揶揄され、90年代後半のITバブルになぞらえる声も多い。

 グルーポンはSECの指示で先週、上場計画を再提出した。その中でACSOIを利益の基準にしないと認めつつ、「業績を評価する経営上の基準」だと主張。投資家には「それぞれ納得できる基準で投資判断をしてほしい」と述べている。

 その進言に従い、諸経費を考慮して一般的な手法でグルーポンの営業利益を計算すると──10年は4億2000万ドル、11年第1四半期は1億1700万ドルの「赤字」となる。

カギを握るリピート率

 赤字の構図は、ほぼすべての新興企業と同じ。グルーポンは地域広告のニッチ市場で主導権を確立して、会員数と収入の爆発的な成長を維持するために現金をつぎ込み続けている。

 広告費は11年上半期だけで3億7900万ドル。しかしグルーポンは上場計画の中で、これらの投資は長期的に回収できると主張する。例えば、10年第2四半期に1800万ドルを投じて獲得した370万人の新規会員が、11年6月末までに7700万ドルの利益をもたらすとしている。

 問題は長期的な成長のためのマーケティング費用が、実際に長期的な成長を生むかどうか。グルーポンは莫大な広告費を掛けている。さらに、経営コストが高い新規顧客をコストの低い常連客に変えていく必要がある。

 上場計画に示されたいくつかの数字から、グルーポンのリピート率は高くないことがうかがえる。これは、ばかげた会計基準よりはるかに深刻な事態だ。

 同社の拠点で最も成熟した市場であるシカゴでは、会員1人当たりの平均売り上げとクーポン1枚当たりの売り上げが減少。顧客当たりのクーポン売り上げ枚数は横ばい状態のようだ。同社が北米でクーポンを独占的に取り扱う企業も減っている。

 全体的な成長も鈍っている。収入は10年第4四半期から11年第1四半期にかけて63%増加したが、続く四半期は36%の伸びにとどまった。クライアントからは悪い評判も出ていて、投資家は慎重になり、最近は市場の競争が厳しくなっている。

 とはいえ、グルーポンはまだ若い会社だ。今後も急成長を続け、収支の数字も数年後は大きく変わっているはずだ。

 だが上場計画には気になる点が残る。ACSOIなる奇妙な基準も、修正版では目立たなくなったが、まだ居座っている。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2011年8月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、年末年始の円先安観も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中