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新興企業グルーポン快進撃の陰の数字マジック
時価300億ドルのIPOに「異議あり」、上場計画書で露見した成長モデルの弱点
いつか来た道 利益は見せかけ、赤字の構造はかつてのドッドコム企業とまったく同じ Scott Olson/Getty Images
クーポン共同購入サイト「グルーポン」は08年11月の創業以来、天文学的な数字をたたき出してきた。同社は今秋のIPO(新規株式公開)を目指しており、時価総額は300億ドルとも言われる(追記:その後、市場環境の悪化を受けて計画を見直している)。
6月2日にグルーポンが米証券取引委員会(SEC)に提出した上場計画にも、急成長を物語る数字が躍る。創業から3年足らずで従業員は7100人。会員数は8300万人を超え、3カ月で2800万枚以上のクーポンが売れる。
10年の売上高は7億1300万ドル。営業利益は10年が6100万ドル、11年第1四半期は8200万ドル。ちなみに120年の歴史を持つ世界最大手の広告代理店オムニコム(従業員6万8000人)は、同四半期の利益が約2億ドルだった。
ただし、誇らしげに並ぶ数字は一般的な会計基準に従ったものではない。同社の上場計画には「調整後連結事業営業利益(ACSOI)」という聞き慣れない用語が50回近く登場する。
11年第1四半期の利益8200万ドルは、ACSOIとやらに基づく数字。これにはマーケティングや企業買収、新規会員獲得など数億ドルの経費、つまり事業拡大の核となる基本的な支出が考慮されていない。
もちろん、投資家も黙ってはいない。グルーポンの上場計画は「マジック」と揶揄され、90年代後半のITバブルになぞらえる声も多い。
グルーポンはSECの指示で先週、上場計画を再提出した。その中でACSOIを利益の基準にしないと認めつつ、「業績を評価する経営上の基準」だと主張。投資家には「それぞれ納得できる基準で投資判断をしてほしい」と述べている。
その進言に従い、諸経費を考慮して一般的な手法でグルーポンの営業利益を計算すると──10年は4億2000万ドル、11年第1四半期は1億1700万ドルの「赤字」となる。
カギを握るリピート率
赤字の構図は、ほぼすべての新興企業と同じ。グルーポンは地域広告のニッチ市場で主導権を確立して、会員数と収入の爆発的な成長を維持するために現金をつぎ込み続けている。
広告費は11年上半期だけで3億7900万ドル。しかしグルーポンは上場計画の中で、これらの投資は長期的に回収できると主張する。例えば、10年第2四半期に1800万ドルを投じて獲得した370万人の新規会員が、11年6月末までに7700万ドルの利益をもたらすとしている。
問題は長期的な成長のためのマーケティング費用が、実際に長期的な成長を生むかどうか。グルーポンは莫大な広告費を掛けている。さらに、経営コストが高い新規顧客をコストの低い常連客に変えていく必要がある。
上場計画に示されたいくつかの数字から、グルーポンのリピート率は高くないことがうかがえる。これは、ばかげた会計基準よりはるかに深刻な事態だ。
同社の拠点で最も成熟した市場であるシカゴでは、会員1人当たりの平均売り上げとクーポン1枚当たりの売り上げが減少。顧客当たりのクーポン売り上げ枚数は横ばい状態のようだ。同社が北米でクーポンを独占的に取り扱う企業も減っている。
全体的な成長も鈍っている。収入は10年第4四半期から11年第1四半期にかけて63%増加したが、続く四半期は36%の伸びにとどまった。クライアントからは悪い評判も出ていて、投資家は慎重になり、最近は市場の競争が厳しくなっている。
とはいえ、グルーポンはまだ若い会社だ。今後も急成長を続け、収支の数字も数年後は大きく変わっているはずだ。
だが上場計画には気になる点が残る。ACSOIなる奇妙な基準も、修正版では目立たなくなったが、まだ居座っている。
© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC
[2011年8月24日号掲載]