今度はイタリアを襲った国家破綻の危機
国債利回りが急上昇し、緊縮策を主張して対立する財務相が脚光を浴びるなか、姿を消したベルルスコーニの真意は
すれ違い 破産寸前のベルルスコーニ(左)と尻拭いする立場のメルケル(1月、ベルリンでの首脳会談後) Fabrizio Bensch-Reuters
イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相はいったい今、どこにいるのだろう。7月11日、イタリア国債の保証コストが過去最高に上昇。ドイツ連邦債とイタリア国債の利回り格差が急拡大し、イタリアがヨーロッパにおける次の財政危機国家になる恐れが広がる中、この国の首相はいつになく静かに沈黙を決め込み、イタリア国民を戸惑わせている。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相も戸惑ったに違いない。事実、メルケルは11日の午後にベルルスコーニに電話し、金融市場からの信頼が厚いイタリアのジュリオ・トレモンティ経済・財務相が推進している緊縮財政法案を承認するよう説得しようとしたと、独政府は語っている。
指図とも受け取れるメルケルのこの行動は、イタリアの世論を刺激した。政治との結びつきが強いこの国のメディアはこれまで、ベルルスコーニや政治家たちのスキャンダルを取り上げることばかりに熱を上げ、イタリアの財務状況についてほとんど報じてこなかったのに、今度ばかりは大騒ぎだ。
だがメルケルからの呼びかけにもかかわらず、ベルルスコーニは姿を現そうとしない。「イタリアはギリシャ型の危機を回避する」と宣言して世界の投資家たちを安心させようとするつもりはないらしい。
ベルルスコーニは、イタリアサッカーのセリエAで自らの保有するチーム、ACミランの初トレーニングを視察するはずだったが、予定をキャンセル。政府報道官によれば、「経済状況」に対処するために12日にはローマに戻ったという。
政争で見えない統一見解
イタリアの経済指標に注目するにつけ、投資家たちは不安を募らせている。債務残高はGDPの120%近くにまで膨らみ、EU内ではギリシャに次いで多い。イタリアの債務は合計1兆8000億ユーロにも上り、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランドの債務を足したよりも多い。
その上、イタリアの経済成長率はここ数カ月ほぼ横ばいで、他のヨーロッパの国々に遅れをとっている。失業率は上昇し、輸出主導の国にとっては致命的なことに、金融危機以前のピーク時に比べて輸出は13%減で推移している。
これらはすべて目新しいことではない。だがユーロ圏を債務危機が襲い、ギリシャやポルトガル、アイルランドがデフォルト(債務不履行)に陥る危険性が高まってEUやIMF(国際通貨基金)から救済を受けるという事態に迫られる中、イタリアはこれまでどうにかして危機を回避してきた。
ローマのルイス大学のマッシモ・スピスニ教授によれば、イタリアにとって救いだったのは金融市場での「評判が良かった」こと。「イタリアの問題点はよく知られているものの、これまでのところ、約束したことは守ってこられた」とスピスニは言う。
だがそんな評判が様変わりしてしまう可能性もある。「ひとたび評判が傷つけば、名誉を回復するにはとても長い時間がかかる」とスピスニは指摘する。
だからこそ今、政府が沈黙を続け、政治的対立が続いていることが、スピスニの不安をかき立てている。「イタリアは明確な統一見解を発信していない。今回私たちにとって必要なのは、アメリカがまさに今そうしているように、市場の一歩先を行き、市場に明確で力強いメッセージを送ることだ」